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技術だけで消えぬ生きづらさ <変わる生の形・身体拡張>

外出に車いすが必要となった中、障害者の生について考察を続ける野崎さん(京都市北区・立命館大衣笠キャンパス)
外出に車いすが必要となった中、障害者の生について考察を続ける野崎さん(京都市北区・立命館大衣笠キャンパス)

 快適な生を求め、ロボット工学や医学の領域で新技術を開発する動きは加速しているように思える。だが優れた技術が必ず「便利さ」につながる訳ではなく、解決するべき問題は残る。

 「ニーズを探るのが難しいんです」。和歌山大システム工学部の中嶋秀朗教授(44)は、何度も強調した。開発しているのは、複数の段差も移動できる電動車いす。車輪部分が柔軟に動き、移動中もいすは水平に保たれる。障害の有無にかかわらず新たな移動手段としての普及を目指し、技術的には高いレベルに達しているという。だが販売を担うメーカーが見つからない。

 中嶋教授は「バリアフリー化が進んでも歩道と車道を分ける段差などが完全に消えることはない」とみる。ただ現在でも、車いすを押すヘルパーやスロープの存在で段差の不便さはある程度回避される。人間の脚を上回る利便性を実現するのも容易ではない。「今までにない乗り物」というコンセプトに反論はなくても共感は得られないという。「優れた技術の開発だけではなくニーズをすくい取らないといけない」。模索しつつ、実用化の壁に挑み続けている。

 一方で、身体機能の回復や増強ばかりに関心が集まる現状へ懸念を持つ障害のある人もいる。

 「障害による生活の不便さは、福祉制度の充実で解消できる部分も大きい」。脳性まひの当事者として障害学を研究する立命館大非常勤講師の野崎泰伸さん(44)は指摘する。野崎さんは、障害の有無にかかわらず受け入れられる社会の必要性を著作などで訴えてきた。

 生まれつき手足が不自由な野崎さんは、2月に首の骨の神経圧迫によるしびれが悪化して手術を受けた。手術はうまくいった。だがしびれが悪化するまではできていた自力歩行は難しくなり、外出には車いすとヘルパーが不可欠となった。主治医からは「iPS細胞(人工多能性幹細胞)による治療を期待するしかない」と告げられた。

 もちろん新たな技術で生活が便利になることは望ましい。障害のある人にとって生き方の選択肢が広がるからだ。

 ただ、現状の福祉制度を充実させることにも注意を向けるべきという。例えば野崎さんは、通勤に必要なヘルパーを自費で雇っている。働けば働くほど支出が増える現状だ。「障害者の社会生活を支える経済活動が阻まれている」と訴える。

 さらに技術が進んで福祉制度が充実しても消えない問題はある。「障害故に感じる負い目です」。障害のある人全体に一般化はできないと断りつつ、野崎さんは説明する。

 野崎さん自身は、ヘルパーに車いすを押してもらったりドアを開けてもらったりすると「申し訳ない」と思う。「障害者の権利だと理解していても、感謝ではなくて『負い目』を感じてしまう」と明かす。精巧な義手など新技術の活用でも、障害で周囲に迷惑を掛けたくないという人が使う場合、本人の自由な意思が尊重されたと言えるかは疑問という。

 「技術が向上して福祉制度が整っても、障害による生きづらさは残るのではないでしょうか。この問いとどう向き合うか、健常者とともに考えていきたい」(全12回の2回目)

   ◇

 京都新聞では、iPS細胞が誕生してから10年となるのに合わせて、2016年から連載「いのちとの伴走」を掲載してきた。研究の最前線に加えて倫理やビジネスなどさまざまな角度から、iPS細胞が社会に及ぼす影響を探った。iPS細胞が切り開く未来はまだ不透明だが、一方でロボットや脳を扱う科学は既に、私たちの生命観に変容をもたらしている。最後となる第6部では、現代科学が変えつつある「生の形」の全体像を描き出したい。

【 2018年01月11日 20時16分 】

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