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犀星忌

 「先(さ)きに死んで行った人はみな人がらが善(よ)すぎる」。同時代を生きた11人の詩人を取り上げた「我が愛する詩人の伝記」に室生犀星は記す。自らは人間の性(さが)を見事に描ききって55年前の今日、72歳で亡くなった▼肺がん闘病記でもある随筆「われはうたへども やぶれかぶれ」や、「けふはえびのように悲しい」で始まる絶筆の詩「老いたるえびのうた」を読むとリアルな描写に切なくなるが、力強さも感じる▼同じく晩年の小説で、金魚の化身の少女と老作家の対話からなる「蜜のあはれ」の生と性の官能的な世界は「ふるさとは遠きにありて」の詩人が書いたとは思えない▼1913(大正2)年1月、23歳の犀星は、京都帝国大教授で訳詩集「海潮音」の著者上田敏を訪ねたと書き残す。北原白秋主宰の「朱欒(ザンボア)」に掲載された詩を読んだとの言葉がどんなに励ましになったことだろう。この年、本格的な詩作活動に入る▼前述の伝記は、親友萩原朔太郎はもちろん犀星より後に生まれて先に逝った堀辰雄、立原道造、津村信夫たちを、今もそこにいるかのように生き生きと描く▼26日は金沢市の室生犀星記念館近くの雨宝院で犀星忌がある。徳田秋聲と犀星の孫が対談し作家の素顔を語る。人は亡くなった後も、その人を知る人の心にしっかりと生きている。

[京都新聞 2017年03月26日掲載]

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