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月満つれば

 論語に「駟(し)も舌に及ばず」という言葉がある。駟は4頭立ての馬車で速いが、それで追いかけても舌の速さに及ばない。いったん口から出た言葉は取り返しがつかないという意味だ▼漢書の「綸言(りんげん)汗の如し」も似た意味だし、日本にも「口は禍のもと」などのことわざがある。西洋の「沈黙は金、雄弁は銀」なども含めて古今東西、不用意な発言を戒める言葉は数多い▼だが、そんな戒めの通用しない閣僚が、わが国にはなんと多いことか。稲田朋美防衛相が東京都議選の自民党候補を応援する集会で演説し「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と訴えた▼防衛省と自衛隊が組織を挙げて特定の候補者を応援する、と言っているに等しい発言である。隊員が法律で政治的中立を厳しく求められていることをまさか知らなかったわけでもあるまいし、あまりにも軽率すぎる▼稲田氏は過去にも、軍国主義に結びついた教育勅語について「全くの誤りというのは違う。日本が道義国家を目指すべきだという精神は変わらない」と持論を展開するなど閣僚の資質が疑われる発言が目立つ▼安倍晋三首相にとっては、政治信条の近い「秘蔵っ子」だ。今回も発言撤回を受けて職務継続を指示した。「月満つれば則(すなわ)ち虧(か)(欠)く」という格言でも贈るか。

[京都新聞 2017年06月29日掲載]

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