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夏の建具
御簾は、風情を演出する(広間「滝の間」)
 ぎらぎら照りつける直射日光の暑さを奪い、すっきりした光のみを通す。むっとするような熱気を遮り、涼しげな風を部屋に通す。  すだれや御簾(みす)、葦(よし)障子。天然素材で作られた薄く透ける障壁が、空間に風情を生み出す。  「京都の風土は高温多湿。通風に配慮した建物の中で、いかにプライバシーを保ち尊厳ある空間を確保するか。工夫を重ね、洗練されて、すだれ文化といえるものが生まれたのでしょう」。京都迎賓館の広間「滝の間」の御簾や葦簀(よしず)を担当した平田佳男さん(六七)は、こう説明する。  源氏物語絵巻に描かれているように、御簾は、貴族など限られた邸宅で用いられる高価なものだった。一般に夏の調度として使われるようになったのは、明治時代以降とされる。  「滝の間」の御簾は、竹の外側の部分と内側の部分とが交互に表に出る「一本返し」と呼ばれる手法で編まれている。表皮と節を削り、細く割った竹ひごは、真水でたいて油気を抜き、夜干しする。そうすると色つやも耐光性もよくなるという。  葦障子の葦は、近江八幡のみろく葦。「美六」と書くことが多いが、平田さんは「味六」と教わった。六つの味わいがあるからという。堅く締まって、渋い色合い。今では幻の葦と称される。平田さんは、約十年前、刈っていた人が辞める時に在庫を引き取り、ずっと保管していた。「これがあったから、京都迎賓館の仕事が出来た」と振り返る。  御簾と葦障子越しに庭の緑を眺めていると、心が落ち着き、不思議と立ち去りがたくなる。
【2006年8月7日掲載】

■風の流れ、水 五感で涼しく 華道家元池坊京都支部長・天野則子さん
 明日は立秋。このころになりますと、風のそよぎにも空の色にも、どことなく秋の気配を感じるのは不思議です。しかし、暑さはいよいよピークに達する時期。京都の蒸し暑い夏を元気に楽しく乗り切るために、昔からさまざまな知恵と工夫がなされてきました。
 庭に打ち水をし、軒にすだれをかけ、縁側に風鈴をつるし、室内には籐蓆(とうむしろ)を敷く。うちわを使い、かき氷を食し、氷柱を立て、香をたき、鈴虫の声を聞く。
 情緒ある夏の風物詩として伝わっているこれらは、五感を働かせて、暑い夏も優雅にたのしもう、という知恵でしょうか。こうした風流な習わしは、今の時代ではぜいたくとなったようですが、ぜひ継承してゆきたいものです。
 京都迎賓館の広間「滝の間」は、季節に応じて建具も衣更(ころもが)えをするそうです。玄関から回廊にそって奥へ通していただきますと、そこに品格のあるお座敷「滝の間」がありました。北側には大滝の庭。西側の庭園の深い緑の木々は涼しい陰をつくり、すがすがしい風が葦(よし)障子を通して入ってくるような心地よい空間です。
 室内には、御簾(みす)がかかっており、源氏物語を思い出すような風雅で品格のある和の世界が広がります。部屋は草庵造りで、水屋をそなえた茶室のしつらえになっています。
 いけばなは、飾る環境や目的に調和させることが第一とされています。旬の花材で季節感を表すことはもちろんですが、賓客をもてなすいけばなとして、上品で清楚(そ)なものを心掛けました。
 力強い大地を連想する色合いの広口の深鉢を選び、素直に伸び立つ姿が静けさを感じさせるシマフトイをいれました。御簾を通して吹く涼やかな風が通るように、軽やかに流れる枝ぶりのナツハゼで大きな空間を作り、ササユリを配して、風に揺れるやさしい風情を演出。すっきりとしたユリの姿は、暑い夏には一層涼しげに見えます。ヒメユリやテッセン、ナルコユリなどで水際を整え、水面をたっぷりと見せることで「滝の間」にふさわしい雰囲気を表現しました。
 京都迎賓館に花を生けさせていただく機会を得て、身の引き締まる思いを、花に託しました。

 あまの・のりこ 1931年、京都市生まれ、2002年京都支部長就任、京都いけばな協会常任理事。日本いけばな芸術協会特別会員。