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[7]人を育てる情報技術

立命館大情報理工学部教授 高田秀志氏
筆者の研究室で開発したシステムの一つで、Scratchを使ってみんなで共同の作品を作れるようになっています。実際に子どもたちに使ってもらった結果、教え合い・学び合いが活性化している様子を観察することができました

 今日ではわれわれの身の回りの至るところにコンピューターが存在しています。スマホやパソコンなど、コンピューターを使っていることを意識しているものもあれば、家電製品や車など、知らずにコンピューターの恩恵を受けていることも多くあります。これらはコンピューターをいわゆる「道具」として使っているものであり、われわれの生活を快適で便利なものにしてくれています。

 一方で、便利になることはわれわれ人間の能力を落としてしまうことにもつながりかねません。コンピューターを使い始めてから漢字が書けなくなったという経験をした人も多いのではないでしょうか。これはコンピューターがわれわれの「記憶」を肩代わりしてくれているためです。しかし、もし、人間の「知性」をコンピューターによって増幅することができれば、われわれの能力を落とすのではなく、さらに高めてくれる道具となる可能性があります。 

学び合い促すプログラミング

 コンピューターには他の道具と違って、プログラムが可能であるという特徴があります。すなわち、プログラムによって道具の機能を自由に高めることができるのです。スマホに新しいアプリをダウンロードしたら新しい機能が使えるようになるのはご存じのとおりですが、自分自身でプログラムを書いて、自分が使っているコンピューターに新しい機能を加えることもできます。

 プログラムを書くことで機能を自由に高められるコンピューターを日常的な生活の中で常に使えるようになればわれわれの能力はどのようなものになるのか。これに着目したMIT(米国マサチューセッツ工科大学)の研究者は、1960年代後半にLOGO(ロゴ)というプログラミング言語を開発しました。LOGOでは、画面上に表示された亀のアイコンをさまざまな命令で操作し、多様なグラフィックスを描くことができます(「タートルグラフィックス」と呼ばれています)。これは、主に子どもたちが日常の生活の中で思い描いた事象をプログラムによって記述することを通じて、思考能力を育成することを狙っています。LOGOはその後、さまざまな教育用プログラミング言語に影響を与え、現在では同じMITが開発したScratch(スクラッチ)と呼ばれるソフトウエアに受け継がれています。Scratchはマウスでブロックを組み合わせるだけでプログラムが作れるようになっており、画面上に表示された様々なキャラクターや、パソコンに接続されたロボットなどを動かせるようになっています。現在最も広く使われている子ども向けのプログラミング環境の一つです。また、このようなプログラミング環境を普及させるために、主に発展途上国へ導入することを狙った「100ドルPC」や、小型で低価格の「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」といったハードウエアも開発されています。

 子どもたちがこのようなプログラミング言語を使ってプログラミングを行うにあたって、筆者は「子ども同士の対話」に焦点を当てた研究を行っています。プログラミングは、ともすればパソコンに向かって一人で黙々と作業をする、ということになりがちですが、自分の作っているプログラミング作品を他の人と見せ合える、あるいは、他の人と一緒に作品を作れるということができれば、プログラミングを通じた学習活動がより効果的になると考えています。

 日本政府は2020年度から小学校でのプログラミング教育を必修化することを決定し、現在はさまざまな取り組みを通じてそのための準備が行われています。子どもたちが「プログラム可能」という特性を理解してコンピューターを使い、それによって子どもたち自身の思考方法にも影響を与えるという循環が生じることによって、コンピューターがわれわれ人間の知性を高めてくれる道具になっていくでしょう。

たかだ・ひでゆき

 1968年生まれ。京都大情報学研究科博士課程修了。専門は協調作業・協調学習支援システム。三菱電機などを経て2006年4月に立命館大に着任。京都市内で開催されている子ども向けプログラミングワークショップの講師も務めている。

【2017年10月11日掲載】