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映画監督 水落豊さん

虚構支える本物の風景
昼間の撮影が多かったので天候には苦労した。「滋賀の4月はまだまだ寒くて大変でしたね」(大津市)
昼間の撮影が多かったので天候には苦労した。「滋賀の4月はまだまだ寒くて大変でしたね」(大津市)
 公開中の映画「偉大なる、しゅららぼん」の撮影で監督の水落豊さん(39)は約1カ月間、滋賀県内に滞在した。
 「映画に登場するのは彦根市や長浜市が中心ですけれど、ロケハンでびわ湖をぐるっと回ると、もう、撮りたいところがたくさんありすぎて。小高い丘から湖畔を走る電車の風景なんて、なかなか撮れる絵じゃないですよ。撮影できなかったのが残念です。
 一番印象に残っているのは舞台にもなった竹生島(長浜市)。あまり人がいないと思っていたんですが、地元の人でしょうか、お参りにこられる信心深い方々の往来がたくさんあって。昔から神聖な場所だったんだろうなあと実感しました。朝もやの中の竹生島は神々しいというか、本当にここから『力』を授かった一族がいてもおかしくないんじゃないかと」

 原作は、独特の世界観が人気の万城目学さん。びわ湖畔に住む日出家と、そのライバルの棗(なつめ)家はともに、不思議な力を持ち、代々争いを繰り広げてきた。
 「現実と虚構がない交ぜになって、どこまでウソで、どこまでホントか分からないのが万城目さんの作品の魅力。映画でも、ウソとホントがはっきりしない表現にしたいと。キャラクターは架空だけれど、彼らが住んでいる、生活しているところはホントであってほしい。リアルなものがベースにあるから、安心してそこにフィクションを乗せていける。
 そういう意味で、セットではつくれない重厚感、本物感を表現するのに、おあつらえ向きの場所や風景が滋賀にはたくさんあって助かりました。日出家の本家跡取りの淡十郎(濱田岳さん)は城に住んでいる設定ですが、彦根城で撮影させてもらいました。国宝クラスの場所で撮影できるなんて思ってもみなくて。お堀を船に乗って通学するシーンがあるんですが、やっぱり本物の城壁が見えるというのはすばらしい。
 昔のお殿様が休憩していた部屋を再現した場所を、淡十郎の趣味の部屋という設定で撮影に使ったのですが、『殿様が使っていた部屋に殿様がいる』っていう奇妙なリアル感が出たり。観光地だからといって、お客さん向けに手を加えすぎていない、そこも良かったですね」

もっと自慢してもいい

主人公たちが船で学校に通うシーンを撮影した彦根城の内堀(彦根市)
主人公たちが船で学校に通うシーンを撮影した彦根城の内堀(彦根市)
 18歳まで新潟県魚沼市で育った。同じ米どころとしての滋賀に親近感も覚えた。
 「湖はなかったけれど、山に囲まれた自然は、子どものころから親しみがあって。都会の撮影とは違って、落ち着いて仕事ができたかもしれません。
 食事もおいしかったですね。ご飯はもちろんだけど、やっぱりお肉の味が印象に残ってます。昼間の撮影が中心だったので、夜はみんなで食事に行って。東京で同じもの食べようと思ったら、何倍も取られますよ。
 人柄も僕の田舎と似てますかね。ギスギスしてなくて、おおらかというか。でもその分、のんきなところもありますよね。竹生島でかわらけを投げるシーンでは、撮影できると聞いていた場所が実は改修工事中っていうのが分かって、急いで別な場所探して。結局、見つかったから良かったんですが、一時は『どうするんだ、セットにするか』って慌てましたよ」

 映画公開に合わせて、県は、ロケ地巡りなどのPRを展開している。
 「風景にしても、食にしても、滋賀の人はもっともっと自慢してもいいと思いますね。当たり前だと思っているからかもしれませんが、『何もありません』というのもアピールだったりする。何もない自然、美しい自然を見たいと思う人はたくさんいる。淡十郎が映画の中で『美しい』『美しくない』という言葉を何度も使うんです。人工的なもの、後から与えられたものは『美しくない』という価値観を持っていて。そういう意味で、滋賀はリゾート化されていない、美しいところがまだたくさんありますよ」

みずおち・ゆたか

子どものころから「映像オタク」。80年代のハリウッド映画のように「押しつけがましくなく、楽しい作品が好き」
子どものころから「映像オタク」。80年代のハリウッド映画のように「押しつけがましくなく、楽しい作品が好き」
 1975年新潟県生まれ。97年に電通テック入社、その後、電通クリエーティブX企画演出部に異動。CMディレクターとして活躍する一方、映画やドラマの監督も務める。代表作に「犬とあなたの物語・いぬのえいが『あきら!』」など。京阪電鉄のCM「5代目おけいはん」なども担当した。初の長編映画作品「偉大なる、しゅららぼん」はT・ジョイ京都、MOVIX京都などで公開中。










 「私の好きな、ときどき嫌いな京・近江」は今回で終わります。

【2014年03月15日掲載】