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安永幸一氏 アジアの現代美術、福岡から

安永幸一氏 やすなが・こういち 1939年生まれ。山一証券などを経て福岡市美術館、福岡アジア美術館開館に尽力。第30回京都賞思想・芸術部門専門委員会委員。現在、福岡市文化政策アドバイザー。


 シンガポール、中国、韓国で大規模な現代美術館建設が進んでいる。古くからの芸術の歴史を誇る中国や韓国では、まったく新しい出自を思わせる美術も現れるようになった。
 インドネシア、ベトナム、ミャンマーなどの若い世代が欧米コレクターの注目を浴びている。アジア出身で、まだ評価の定まらない作家、作品が次々に投機対象となっている。
 アジア色豊かな作品から、政治色のメッセージを帯びた強く訴えるものまで、作風はさまざまだ。欧米中心の見立てでは理解できないかもしれないが、アジアの現代美術界は近年、たいへんな活況を呈している。
 福岡アジア美術館は、1999年に開館した世界で唯一、アジアの近現代美術の専門館だ。79年、福岡市美術館の開館記念として「アジア美術展」が開かれた。アジアの現代美術を紹介する機会が、ほとんどない時代。この特別展が、アジア美術館開館につながっていった。
 特別展当時の福岡市長は、政治結社・玄洋社で最後の社長も務めた進藤一馬氏。「アジアは運命共同体」との考えの持ち主だった。京都国立近代美術館館長などを歴任し、福岡市美術館建設専門委員だった河北倫明氏らの市長に対する助言も、アジア志向を後押ししたと思う。
 「欧米は東京に任せて、アジアに近い福岡の美術館はアジアに着目すべきだ」といった内容だった。
 扱うアジア各国は、外務省アジア局の管轄エリアを参考にした。朝鮮半島から中国、モンゴル、西はインド、パキスタンまで。南はフィリピン、インドネシア。戦後30年たったとはいえ、アジア各国からはさまざまな反発も予想され、学芸員たちは緊張して調査に出向いた。
 中国では「社会主義リアリズム」と呼ばれる労働の喜びを表現する美術が主流で、フランスなどの影響を受けた韓国の「エコール・ド・ソウル」のような新潮流は、アジアではごく一部。それでもインドの調査では、岡倉天心とタゴールとの接点から訪印した横山大観や菱田春草の作品がギャラリーに眠っているらしいなど、さまざまな成果もあった。
 2019年のICOM(国際博物館会議)京都大会で、日本に期待される役割は、複数あるだろう。中国などで、福岡アジア美術館での個展にあこがれる美術家たちが増えている。アジア各国との展示手法などでの意見交換、交流は意義があると思う。日本よりも立派な美術館を持つ各国に対し、情報発信や展示など運営面での考えを伝えていけたらと思う。

(福岡アジア美術館初代館長)

[京都新聞 2018年02月16日掲載]