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臼井重雄氏 家電の未来創出と伝統工芸

臼井重雄氏 うすい・しげお 1967年生まれ。90年松下電器産業(現パナソニック)入社。テレビ、洗濯機などの製品デザインを担当。上海のデザインセンター所長などを経て、2017年1月から現職。


 ミラノで毎年開催される4月のデザインウィーク。世界中の企業、デザイナーが出品する意欲的なインテリア、工業製品などを通じ、最先端のデザインに触れられる機会だ。パナソニックは昨年、西陣織や茶陶、竹工芸など京都の若手伝統工芸集団「GO ON」と共同制作した「クラフト家電」の試作品を、この中の「ミラノサローネ」に出品した。
 茶筒型のワイヤレススピーカーなどさまざまで、金銀箔(はく)を貼った糸も使った西陣織のスピーカーカバーは触れると音が鳴る仕組み。日本のエレクトロニクスと伝統工芸の高い技術力と美意識を融合させて世界に発信するのが狙いで、公式コンペティションで「ベストストーリーテリング賞」を受賞した。
 創業100年を迎えた今年4月、パナソニックはテレビ、音響、炊飯器や洗濯機など家電製品のデザイン機能を、国内では京都に集約した。四条新町のデザインセンターでは現在、イタリアやインド、シンガポール出身者を含む約150人が議論を交わし、新しいデザインを生み出そうと知恵を絞っている。
 映像・音響などの「黒物家電」はいわば文明の機器で、地球規模で同一デザインが流通している。一方、生活に密着した冷蔵庫、洗濯機など「白物家電」は、文化だ。冷蔵庫なら、国や地域によって内部で保存するものが異なり、求められる機能や大きさも変わってくる。まさに食文化の拠点といえるだろう。実情に応じた製品を開発・販売している。
 日本のデザイン史を振り返れば、よりよい家電製品の将来像は、鑑賞用ではない、日常遣いの製品づくりを実践した民芸運動と重なる。パナソニック創業者・松下幸之助(1894~1989年)も、伝統工芸は日本のものづくりの原点との意識を持っていた。
 京都の若手伝統工芸集団と共同でデザインについて考えていると、私も工芸の持つ重要性を認識する。製品デザインの考え方が大きく変わったこともある。例えばテレビの場合、デジタル化、薄型化、大型化など、めまぐるしく進化する技術を整理し、お客様にとって使いやすい製品に仕上げることが課題だった。
 今では、新しいアイデアで異なる技術を組み合わせることが求められている。社会情勢や環境問題にも目配りをし、デザイナーにはお客様の代弁者としての役割も課せられていくだろう。ミラノへの出品なども通じ、京都の伝統工芸が実は世界に開かれており、積極的に展開を図っていることを学んだ。京都のデザインセンターから新たな価値創出ができればと願っている。

(パナソニックデザインセンター所長)

[京都新聞 2018年06月15日掲載]