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米新政権1ヵ月  一貫性欠き信頼は程遠い

 ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任して1カ月余りが過ぎた。支持者に「ホワイトハウスはとても順調だ」と胸を張ったが、新政権の現実は「信じられない混迷」(ニューヨーク・タイムズ紙)に見える。
 何より不安をかき立てるのはトランプ氏の言動が一貫性を欠き、政権の方向性が見えないことだ。これでは信頼に基づく安定した関係を他国と築くことは難しい。
 トランプ政権の不安定さは人事に端的に表れている。いまだに政府の主要ポストの多くが上院の承認を得られず、政権中枢の幹部には失態が相次ぐ。安全保障担当補佐官はロシアとの癒着疑惑で辞任し、トランプ氏の長女が扱う商品の購入を呼び掛けた大統領顧問は倫理違反で懲戒処分を勧告される始末だ。
 就任直後から医療保険制度改革(オバマケア)の見直しや環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉などを指示する大統領令を矢継ぎ早に出した。厳しい不法移民対策を打ち出し、連邦高裁が差し止めたイスラム圏からの入国禁止措置になおも固執している。
 一連の政策は選挙中の訴えを引き継いでおり、「忘れられた人々」である白人勤労者層など一部の支持は根強いが、支持率は40%と低迷し、反政権デモが続く。国民を結束させるどころか分断は深刻化している。
 国際社会でも、定見のない言動が当惑と混乱を招いている。
 中東政策では、パレスチナ国家を樹立してイスラエルとの共生を目指す「2国家共存」にこだわらない姿勢を首脳会談で突然示し、驚かせた。
 対中国では、就任前に台湾の蔡英文総統との電話会談で「一つの中国」原則に縛られない姿勢を示したが、中国の習近平国家主席と今月電話会談した際は一転して「一つの中国」を尊重するとした。蔡総統にすれば、はしごを外された思いだろう。
 極め付きは核戦力の強化宣言だ。オバマ政権がロシアと結んだ新戦略兵器削減条約(新START)をインタビューで「まずい協定」とこき下ろし、米国が「核兵器で後れを取ることは決してない」と断じた。
 他国との共存共栄や「痛み分け」の発想はうかがえず、自由や人権、平等といった理念や価値観も語らない。「メディアは私の敵ではなく米国民の敵だ」と既存メディアを攻撃して大衆の歓心を買う手法も相変わらずだ。世界の平和と安定に責任を負うべき超大国の指導者としての自覚と資質を疑う。
 深刻なのは、トランプ氏の暴走を制御し、政権を円滑に運営する「司令塔」が見当たらないことだ。政権を牛耳っているのが、白人至上主義の「オルト・ライト」と関係する右派ニュースサイトの会長であるバノン首席戦略官とあっては不安が募る。
 安倍晋三首相は先の日米首脳会談で「抱きつき戦術」で蜜月を演出したが、接近しすぎては危うい。尖閣諸島が日米安保の適用範囲だという言質を得て喜んでいるようだが、ぬか喜びに終わる不安がつきまとう。トランプ政権の正体と動向を慎重に見極めたい。

[京都新聞 2017年02月26日掲載]

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