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稲田防衛相発言  撤回しても責任免れぬ

 またも耳を疑う発言である。慌てて撤回したとはいえ、あまりの軽率さに驚きを禁じ得ない。
 東京都議選の自民党候補を応援する集会で、稲田朋美防衛相が「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いをしたい」と演説した。陸上自衛隊練馬駐屯地の関係者を念頭に「ぜひ2期目の当選、本当に大変だからお願いしたい」と支援を訴えたようだ。行政の中立、公平性を逸脱していないか。
 与党内からも「常識的に考えて自衛隊の政治利用という以前の話だ」(石破茂元防衛相)との声が上がるほどだ。野党が即刻辞任を求めるのは当然だろう。
 憲法15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と行政の中立性を定める。これを踏まえ、国家公務員法は公務員の政治的行為を規制し、自衛隊法も選挙権行使を除き隊員の政治的行為を制限。公職選挙法でも公務員の地位利用による選挙運動が禁じられている。
 だからこそ自衛隊と政治の関係には慎重さが求められる。ところが、陸海空23万人の自衛官の上に立つ稲田氏の発言は、あたかも防衛省や自衛隊が組織を挙げて自民党候補を支援する、と主張したようにも聞こえる。森友、加計両学園問題で「国政の私物化」との疑念を拭えない中、自衛隊を自党候補のために利用しようとしたとも言え、法に抵触しかねない。
 稲田氏は、以前から物議を醸す発言を繰り返してきた。2月に陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に従事する南スーダンを巡り、厳しい現地情勢を覆い隠すような答弁で波紋を広げた。3月には森友問題に関連した国会答弁を撤回し、謝罪に追い込まれた。
 今回も稲田氏は「誤解を招きかねない」として発言を撤回したものの辞任を拒んでいる。だが、いったん口に出した言葉の責任は免れない。国政に携わる閣僚、議員としての資質に疑問符が付く。
 嘆かわしい閣僚は稲田氏に限らない。4月に東日本大震災に関し「まだ東北で良かった」と失言した今村雅弘復興相が更迭された。山本幸三地方創生担当相は政府の観光振興を進める上で「一番のがんは文化学芸員」との暴言で批判を浴び、金田勝年法相も「共謀罪」法案の審議で答弁が迷走した。
 政権全体におごりが目立ち、内閣のたがが外れていると言うしかない。なぜ閣僚を務める力量を欠いた人たちが登用されたのか、失言の撤回だけで許されるのか。安倍晋三首相の任命責任は重い。

[京都新聞 2017年06月29日掲載]

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