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核禁止条約  被爆国が背を向けるな

 核兵器を非合法化し、廃絶を目指す核兵器禁止条約の制定に向けた交渉があす27日、米ニューヨークの国連本部で始まる。
 非人道的な核兵器の廃絶に国際社会が向き合う歴史的会議であり、「核兵器なき世界」へ重要な第一歩を踏み出すことを歓迎したい。だが、この交渉に安倍政権は慎重な姿勢を崩さない。唯一の戦争被爆国である日本が核廃絶を希求する世界の潮流に背を向けてはならない。
 核兵器の開発や実験、保有、使用を全面禁止する条約は、国際司法裁判所が1996年、核兵器は「国際法や人道法に一般的に反する」と勧告的意見を出したのに端を発する。条約の交渉入り決議が昨年12月、国連総会で113カ国が賛成して採択された。交渉会議は今月と6~7月に予定され、今秋にも条約案がまとまる可能性がある。
 米国やロシアなど核保有国は決議に強く反発した。核抑止力や国際的な安保体制を損ねるとの主張だ。米国の「核の傘」の下にある日本も追従し、反対に回った。多くの非核保有国や被爆者から強い失望や批判を浴びたのは残念極まりない。
 交渉会議は、理想論とやゆされてきた核廃絶を具現化していく転機になる。核兵器の非人道性を訴える上で、日本は重要な役割を期待されているのに、米国の顔色をうかがうばかりで、先月の準備会合にも出席しなかった。後ろ向きな姿勢を各国に強く印象づけたに違いない。
 日米同盟重視の安倍政権は、「核の傘」へ傾斜を強める。北朝鮮の核・ミサイル開発など安全保障上の脅威に直面するとはいえ、日本がどんな立ち位置をとるのか、重大な選択を迫られている。共同通信の世論調査で7割以上が交渉会議に参加すべきだと答えた。圧倒的な支持は、核廃絶に向けた日本の役割を強く求める民意と言える。
 そもそも新たな条約制定の背景には、米ロなど核保有五大国が主導してきた核拡散防止条約(NPT)体制での核軍縮の停滞がある。五大国は特権的な核保有による抑止力を安保政策の軸に据え続け、核軍縮は一向に進展しない。一方で核の脅威は南アジアや中東、北朝鮮へと拡散し、破滅的な結果を招きかねない。その悪夢から人類を救う手だては核廃絶以外にない。
 トランプ米政権は核戦力拡大に積極的な姿勢を示し、交渉会議に「激しい嫌悪感」を表明。核保有国として唯一、交渉参加を検討していた中国も見送りを決めた。これではせっかくの核軍縮の機運が後退しかねない。
 核保有国が参加しない中、禁止条約を作っても意味がない、核保有国と非核保有国の分断がさらに深まる-といった見方も根強く、道のりは険しい。それでもお手本がある。99年に発効した使用、保有、製造を禁じる対人地雷禁止条約だ。非政府組織(NGO)の提唱がきっかけとなり、米ロ中などは難色を示したが、条約制定にこぎ着けた。
 交渉会議がすぐに核廃絶につながるかどうか楽観できない状況ではあるものの、「核兵器なき世界」へ確かな道筋を探る踏み台としなければならない。被爆国である日本の責任は重い。

[京都新聞 2017年03月26日掲載]

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