京都新聞 こころのわ きづく つながる ささえあう

児童虐待・育児放棄の現況と背景

―2010年夏、大阪市西区のマンションで幼児2人の遺体が見つかった事件。現場の部屋にあった冷蔵庫は扉が開いたままで、壁には2人が汚れた手で触ったとみられる跡が多数残っていました。室内は高温で、2人はほぼ裸だったそうです。そして、死亡前の数日間は何も食べておらず、ただひたすら食べ物を探し回っていたとされています。いわゆる育児放棄(ネグレクト)です。

―記憶も新しいことしの1月、埼玉県狭山市で顔にやけどを負った3歳女児が死亡した事件。逮捕された母親と同居の男は、無料通信アプリLINE(ライン)で「今日も水をかけよう」などと、虐待を楽しむようにその方法についてやりとりしていたとされています。押し入れの中にはロープ用の金具が取り付けられていました。

これらの事件が起こった背景について、さまざまな報道や憶測がありました。多くの人が「なぜ」「ひどい」と思い、「人間の所業ではない」と加害者を糾弾します。しかし、これらの事件のほかにも類似の育児放棄や児童虐待に関わる事件は後を絶つ気配がありません。何が、どうして、どのようになって、このような悲劇的な事件が起こってしまうのでしょうか。それらは防ぐことはできなかったのでしょうか。誰かが被害者、加害者ともに手助けすることができなかったのでしょうか。

情報化社会の発達で「誰もが、すぐに、誰とでも」つながることのできる現代社会。しかし、核家族化が進み、個人情報の保護が声高に叫ばれる中、逆に人々は孤立してしまっています。そして不安にさいなまれています。新たな悲しい事件を起こさないために何が必要なのか。「昔は良かった」という懐古主義ではなく、現代社会において必要な何かを一人一人が模索する必要があります。

86.3%

京都市児童相談所 「子ども虐待SOS」 専用電話相談件数

※( )内は実母からの相談件数

2004年=390件(256件)/2009年=1358件(675件)/2014年=2413件(1068件)

児童相談所に寄せられる通告や相談の内容を総合的に分析すると、虐待の要因やその結果が一定見えてきます。要因は大きく三つ。
【1】 性格的偏りや病弱、未熟児、多胎児などのほか、発達障害や知的障害など、 子ども自身に何らかの問題を抱えていることから起因する場合。
【2】 家庭・家族の不安定要因。経済的な困難やひとり親家庭、ステップファミリー (※1)、夫婦間不和、若年出産、育児疲れなどから起因する場合。
【3】 物だけが豊かな社会、核家族化、過度なプライバシー尊重社会による個人間 の相互扶助意識の欠落と、その結果としての家族単位の孤立化。住環境の変 化や地域社会における助け合いの精神の欠如から起因する場合。
※1. 子ども連れで再婚した夫婦の家庭
虐待の問題が発生する要因として、①のような、「子どもたち自身の問題」 に起因することは全体の半分。 しかし、その数字には「望まれず出生」や「保護者との分離体験」などの項目も含まれていることから、大部分は生まれてくる子どもたちの問題ではなく、親の幼少期の体験や、現在おかれている経済・精神状況の不安定、周囲の人々との助け合いの欠如などが要因です。そしてそれらが複合的に絡み合い、結果としてストレスのはけ口が弱い子どもに向かっているのです。

虐待につながると思われる家庭・家族の状況

1.経済的な困難 2.ひとり親家庭 3.夫婦間不和 4.DV

厚生労働省の調査(※2)によると、虐待により死亡した子どもの年齢は0歳が44.0%と最も多く、5歳までを合わせると86.3%に上ります。その大部分が、乳幼児なのです。主たる虐待加害者は実母が半数近く。子どもの死亡時におけるその年齢は30歳未満が75%でした。また、地域社会との接触状況の調査では、「ほとんどない」「乏しい」とされた割合が80%以上であることが示されています。この調査結果が浮き彫りにするのは、悩みを相談する相手がいない育児環境の社会的孤立化です。

子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について
社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会調べ

「憎い」という感情で虐待するケースはそう多くありません。多くは「どうしてちゃんと言うことが聞けないのか」など、怒りの感情から体罰がエスカレートしたり、それが子どもの安全を脅かすことになるなど、適切な子どもへの対応方法を知らないことから悲劇は生まれるのです。

「子どもは宝」 いつからか、その言葉をあまり聞かない社会となりました。

「きづく つながる ささえあう」。一昔前も多くの問題がありました。現代社会の抱える問題について、一度立ち止まって考えてみてください。隣に困っている人はいませんか?隣で泣いている人はいませんか?おせっかいかもしれません。ただ、その一言、その一歩の行動がかけがえのない子どもたちの明日を開く鍵となるかもしれません。

児童虐待認定(対応)件数の推移

全国児童相談所の虐待対応件数

京都府相談受理件数・京都府相談対応件数・京都市認定(対応)件数・滋賀県認定(対応)件数

児童相談所全国共通ダイヤル 189(いちはやく)

赤ちゃんは泣くことが仕事です。 泣くことが他者との絆やコミュニケーションの基礎となります。 子どもが発達していく上で、 泣いたり、 笑ったり、 騒いだり、 その喜怒哀楽の全てが、 人間形成のベースとなるのです。 しかし、 現代の社会全体が子どもたちの感情の発露に対して寛容ではなくなってきています。 私たちは子どもたちに、 極端に幅の狭い道を歩ませようとしているのではないでしょうか。
相談に来られた方には、 ご家族に合ったさまざまな応援をすることができ、 事態が好転したケースも少なからずあります。 一方で、 悩みを抱える当事者自らが 「相談する」 ことの難しさがあるのも事実です。 現代の育児環境は決して楽な状況ではありません。 育児休暇を取った方から 「子どもが生まれることで、 子ども中心の二人だけの時間がたくさんできます。 そうすると社会との接点が減り、 戸惑い、 その距離を実感し、 孤独を感じるのです」 といった話を聞きます。
われわれサポートする側はそれぞれの家庭において、 子どもが生まれる前から 「子どもの自然体の姿について父母ともに準備し考える」、 そんな予防的な取り組みをしていく必要があると考えています。 子どもにとって 「泣く」 ことは当たり前。 その当たり前を家庭、 地域、 社会全体が受け入れる。 そんな支え合う社会に近づくことが、 子どもの安全で安心な育ちを保障することになると思います。

(滋賀県彦根子ども家庭相談センター 所長 菅野道英さん)

なくしたい なくならない なぜですか

実際の掲載紙面の全体データはこちら(PDFファイル)

ページトップへ