「発動 京都の工芸」

布象嵌の不思議なざわめき
 染色家 福本繁樹さん
 染色家の福本繁樹さん(1946年−)が近年取り組んでいる布象嵌(ぞうがん)作品の画面には、不思議な揺らぎ、ざわめきがある。4ミリ角に刻まれた微小な染め布は、縦横1・6メートルほどの2曲屏風(びょうぶ)1隻におよそ16万枚も貼(は)り込まれる。精緻(ち)なモザイクの全容を視野に入れれば、長方形や対角線を結ぶ三角形などの図形が浮かび上がる。けれども、画面は幾何学だけでは満足しない。無数の水平線がさざ波のように現れたかと思えば、一つひとつ模様の異なる染め布のドットが点滅するごとくに自己主張を始める。視点や見る角度によってさまざまな表情が生まれ、作品の印象を新たにする。

 布象嵌作品の制作を手掛けたのは10年前。「何か面白いものにならないかと、染めた布をスパーンと切ったのを覚えています」。切った布をずらして合わせ、また切ってずらす。しかし、ものにならないと感じて放っておいた。それが20センチ角ほどの小品として見ると、意外な面白さがあった。「それで小さいのから始めて、だんだん細かい仕事で大きな作品を手掛けるようになった」。つくる過程で、織りの方向の組み合わせが生む微妙な効果にも気付いた。

 象嵌に使う布は、染めた後に紙で裏打ちする。次に4ミリ幅に切断し、他の染め布と組み合わせて裏打ちして、また裁断すると、4ミリ角の布片が並ぶ細い帯状になる。これを大画面に再構成する。「材料をたくさん用意しておき、仕事場いっぱいに広げて選びます」。再構成は「ハンカチをガラスに貼るみたいに」透明なプラスチック板に布の帯を貼っていく。帯の配列が生み出す表情を確認するためだ。伝統的な裏打ちの表具技術と、プラスチックという新素材の道具の取り合わせが、細密な象嵌を可能にした。「1から10までオリジナルというのでなく、伝統のアレンジの仕方によりオリジナルが生まれる」と話す。

 京都生まれ。京都市立芸大で油絵を専攻した。2年生の時に父が倒れ、生活のため家業の染色を引き継いだ。「当時、ろう染めの着物はおしゃれ着で、面白いものが良いとされた。恐いもの知らずで、どんどん変わったものをつくりました」。着物づくりの一方で、輝くような斜線の染めが印象的な「風神」「雷神」の壁飾りなど、独創的な作品を発表してきた。

 染色を「素材と技術と自分のキャッチボール」と表現する。油絵の制作が頭の中で描いた完成予想図に作品を近づけていくのに対し、染めは「染みたり広がったり、乾いたら色が変わったり、作家がコントロールしきれない。素材が返してくる魅力的なものを生かし、発見しながら、作家が持っている以上のものをつくりたい」。謙虚な気持ちで素材の言葉に耳を傾けてこそ、工芸の可能性は開ける−とみる。

 一昨年、韓国・清州(チョンジュ)の国際工芸ビエンナーレでグランプリを獲得。昨年は北京でのビエンナーレに出展するなど、海外での活躍も目立つ。今年5月にはベルギーでの国際展にも参加する。「そろそろ1枚の布作品に戻りたい気持ちの一方で、100万粒の象嵌に挑戦したいとも思っています」。その活動から今年も目が離せそうにない。

 写真右=「スローライフや伝統性、地域性が再評価される中で、21世紀が工芸の時代になれば」と話す福本繁樹さん
 写真左=両面染色2曲屏風「三光・月」(2001年)などを出展し先ごろ開かれた個展(豊中市立市民ギャラリー)

 

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