佐々木酒造の杉玉
佐々木酒造の杉玉

 「今年も新酒ができました」のしるしの杉玉が蔵元の玄関に吊るされ、界わいに新酒の甘い香りが漂いだした。洛中と呼ばれた旧市内に、昭和30年代には30軒余りの酒蔵があったそうだが、今ではこの、佐々木酒造1軒になってしまった。

 佐々木酒造の酒蔵の通りを歩くと、大きなタンクの中で、お酒がこんこんと眠っている様子を思い浮かべてしまう。

 5年ほど前から何度もこの時期、酒蔵を見学させていただいて、お酒の製造工程の話を何度も聞いているのに、お米を蒸して麹(こうじ)を加えてというところまでは理解できているが、その後の酒母に酵母がどうとかして、発酵して仕込みがどうのというところで、もう解らなくなっている。

 大きなタンクに掛けられたはしごを登り、中をのぞくと、どろどろの白いおかゆのようなものが、ふつふつと沸き立っている。なんだか気持ちよさそうにまどろんでいるように思えた。以来、タンクの中で眠ってお酒に変わるというイメージが、頭の中に住み着いてしまった。

 酒蔵を見学させていただきたいと、初めてお願いに行ったときのこと。玄関の杉玉が「一見さんお断り!」「女は酒蔵に入れないぞ!」と言っているようで、どうしてもこの玄関の戸が開けられなかった。玄関で友達に背中を無理やり押してもらい、よろよろと転げるように入った変な私を、快く迎えてくださった佐々木酒造の方には今でも感謝している。

 杉玉を見る度、あのときの酒蔵の前を行ったり来たりしてしゅんじゅんした、心細い気持ちを思い出す。

(京都市上京区日暮通椹木町下ル)