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(1)カワイオカムラ 「AIRS(エアーズ)」

虚と実 奇跡のような往復謎の「ヘコヒョン」 問う「リアル」さ


謎めいた展開が笑いもさそうアニメーション作品「AIRS(エアーズ)」

 樹脂粘土の人形たちが動くアニメーションに、ストーリーはない。おじさんたちが、多数のモニターが並ぶ放送局のような室内にたたずむ。1人が7時の時報とともに突然、ナレーションを始め、妄想のような映像がさく裂。そして、謎の言葉「ヘコヒョン」をめぐって語りが展開していく。

 「2005年、田を耕してもヘコヒョン。2009年、魚を獲ってもヘコヒョン。2011年、きっと生きているだけでヘコヒョンと言われる時代が来るだろう。その前に、すべての観客は大急ぎでヘコヒョンを見るのをやめて、ヘコヒョンにならなければならない…」

 笑いか、笑いを装ったシリアスさか。意味付けをしようとしても、するりと逃げていくようなナンセンスさ。しかし、一度みたら忘れられない強い印象を与える。

 カワイオカムラの「AIRS(エアーズ)」。カワイオカムラは川合匠さん(37)と岡村寛生さん(37)で結成、8年前から樹脂粘土製の人形をコマ撮りしたアニメーション作品を発表している。今年、「AIRS」の前身というべき作品「ヘコヒョン7」が、短編デジタル映像の公募展「アンダー10ミニッツデジタルシネマフェスティバル」で、初代グランプリに輝いた。現在、新たに場面や作り込みを加えた「AIRS」が、KPOキリンプラザ大阪(大阪市中央区)の「キリンアートプロジェクト2005」(12月13日まで)でオンエア中だ。

 「ヘコヒョン7」が上映された時、ほとんどの鑑賞者は、ただただぽかんとした表情を浮かべていたという。ヘコヒョンは虚と実の間を「奇跡のような往復運動をしていた」が、今やそれを取り戻すことは極めて難しいと語られる。が、それが一体何であるのかは明かされない。ヘコヒョンを「ロック」と解釈した人もいたらしく、2人はこうした反応を楽しむように「いろんな言葉を代入してほしい。わけのわからないものを前にして、想像力を総動員して見てほしい」と挑発する。

 数分間のアニメだが、制作には半年以上の労力を詰め込んだ。窓をふさいだ古びた町家の一室で、1コマ撮っては人形を動かし、の繰り返し。アイデアを思いつけば途中で何度でも変更。「制作を始めると、太陽の回転が早いなーという感じ」。人形、舞台も手づくりし、表したいイメージに近づけるための労力を惜しまない。作り込みの徹底は、観るほどに奥行きのある画面を生む。

 お笑い芸人風のネーミングは、どことなく関西風味。「ロックバンドのように作品づくりがしたくて」2人組の活動を始めた。1人がひらめいたアイデアは、対話の中で違う角度から光を当てられ反響する。冗談を言い合っていると、もとの話が思いもかけない文脈で展開し、見た目の入りやすさと、ある種の形而上学を含んだ不可思議な世界が表れてくる。ロックミュージック、お笑い、プロレス…。

 「芸大出身なのでアートだと思われがちだが、いわゆる『芸術』の枠内にとどまらないものを目指している」という。確かに、作品はアートともエンターテインメントともつかない。

 「映像を用いるのは、イメージを複雑なまま具体的に伝えるため。アートに昇華しても、逆にコマーシャルのようにメッセージを単純化しても伝えることができない」。「リアル」とは何かの問いかけ。混とんとしたものを既成の枠組みに押し込めず、そのまま提示する。ヘコヒョンがふっと、現れる奇跡の瞬間を求めて、挑戦が続く。

[京都新聞 2005年11月20日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

カワイオカムラ
岡村寛生(おかむら・ひろき)さん、川合匠(かわい・たくみ)さんが京都市立芸術大大学院在学中の1993年に結成。97年以降、「オーバー・ザ・レインボウ」「ヘッドレス」シリーズなどアニメーションを主とする映像作品を6本発表。98年には、パリでの国際展「どないやねん〜現代日本の創造力」でも上映された。

「ロックバンドのように作品が制作したい」と語る、カワイオカムラの川合匠さん(左)と岡村寛生さん

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