The Kyoto Shimbun

(2)司辻有香 「I love you(In the bed)」

強烈な感情、赤裸々な言葉直接的な表現で人間のリアルを


姉妹の激しい感情のぶつかり合いを描いた「I love you(In the bed)」の一場面

 病院の個室を思わせる白い舞台に、ぽつんと置かれた白いパイプベッド。床と壁のすき間からじんわりとにじみ出した赤が、どこか隠微だ。

 ベッドで眠る女を見下ろして、妹が叫ぶ。

 「お姉ちゃんはずるい、お姉ちゃんはずるい、お姉ちゃんはずるい!」

 登場するのは、同じ男に恋をした姉妹。嫉妬(しっと)や憎悪、どうにもならない恋心。むき出しの感情を、赤裸々な言葉で投げつける。

 「お姉ちゃん! 私も全部欲しい! 井上さんのすべてが欲しくなる!私の体全部! 全部で! 私は井上さんを手に入れたい!」

 「井上さんから、井上さんから、井上さんから、井上さんから…井上さんから愛されてる証拠が欲しい!」

 ほえるようなせりふの応酬、暴力、ドラッグ、あからさまなセックスシーン…。あまりにもストレートな言葉の強烈さ、嵐のような感情の強さに、観客は圧倒される。自ら指定したR−15(中学生以下入場不可)の問題作は、賛否両論渦巻く中、先月末、京都芸術センター舞台芸術賞佳作を受賞した。

 「人間のリアルを書きたかった」。作・演出の司辻有香さん(24)は言う。「恋を題材に選んだのは、現実の中で一番感情を強く発揮するものだから。愛はお互い理解し合わないと生まれないけど、恋は好きだと思ったら1人でも発生する。恋のひとりよがりな部分を書いてみようと思った」。

 俳優志望だったが、大学2年の時、自分で戯曲を書いた。演出家のプランに沿った演技を要求される俳優とは違う快感。自由。「私がしたかったのは、自己表現なんだ」。初めて気付いた。

 「I love you…」は5作目。全作品に共通するのは、愛情を求めながらも最後まで分かり合えない孤独感や寂しさだ。

 「私の作品の中では、暴力もセックスも相手があるものじゃない。相手が悪いから殴るのではなく、殴りたいから殴る。愛してるからセックスするのではなく、欲しいから、したいからする。そこにあるのは『個』なんです。やり場のない感情の発散の仕方が、暴力やセックスだというだけ」

 けんかが絶えない家庭で育った。今思えば、祖父母や両親それぞれから愛されていたが、「欲しかったのは、家族という共同体からの愛。それは得られなかった」。そんな思春期の経験が、「個」を描く今の作風につながっているのかもしれない、と自己分析する。

 戯曲を書き始めた当初は、直接的に性を表現する言葉や強い感情を表す言葉を禁じていた。「人は普段、感じていることをすべて言葉にするわけではない。強い言葉も使わない。それがリアルだと思っていた」。

 だが、創作を重ねるうち、考えが変わった。「ドラマチックでも、強く心に届く言葉は、やはりリアルなんだ」。「ずるい、ずるい、ずるい…」。連呼することで、強調される思い。その手法は、今作でも繰り返し使っている。

 当初は戯曲をそのまま舞台に上げるだけだったが、俳優を通してどう見せるか、演出への意識も高まってきた。俳優への要求は、「演技ではなく、1人の人間としてのナマの叫びを聞きたい」。俳優が役の気持ちを理解するまで、何度も話し合いを重ねる。

 自分に近い所から作品を生み出す、「皮膚感覚的」とも評されるスタイルは、「痛いし、つらい」と苦笑する。それでも、「演劇は自分の存在の証明。作らずにはいられない」。

 「幼い」「勢いはあるが、続けられるのか」。そんな批評もある。だが、観客の胸ぐらをつかんで揺さぶるような舞台は、確かなエネルギーに満ちている。

[京都新聞 2005年11月27日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

司辻有香(かさつじ・ありか)
劇作家・演出家。1981年、富山県出身。2000年、京都造形芸術大映像・舞台芸術学科入学。現在、同大学大学院1年に在学中。01年から劇作を始め、02年、「辻企画」を結成して第1回公演を行う。「I love you…」は今年9月初演。前作「愛と悪魔」は、本年度OMS戯曲賞の最終選考にノミネートされている。

次作は来年秋。「家族を書きたい」と構想をめぐらす司辻さん

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