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(4)はじめにきよし 「楽」

心が織りなす音の風景見慣れた場所から音楽が生まれる


ライブハウスの舞台で演奏する「はじめにきよし」。ピアニカ奏者が新谷さん。ギター奏者がサキタさん(大阪市北区)

 心がくすぐったくなるような曲だ。フンワリとしたピアニカ(鍵盤ハーモニカ)の旋律に、ギターの弾けた音が絡み合っていく。題名は「SMILE」。コマーシャル曲などで知られるアコースティックデュオ、はじめにきよしのアルバム「楽(らく)」の冒頭曲だ。

 演奏しているのは、「じっとしているタイプ」と言うピアニカ奏者新谷キヨシさん(41)と、「いつもバタバタ」と語るギター奏者サキタハヂメさん(34)の2人。新谷さんは京都生まれの京都育ち、サキタさんは生粋の大阪人だ。今から10年前、京都のライブハウスで何げなく楽器で遊んでいると、「それ、エエんちゃう」「そうかな」と音楽の呼吸が合ったという。以来、付かず離れず2人で活動を続け、CDアルバムを4枚出した。

 2人が奏でる音色は、普段着のようで親しみやすい。チープながらとても奥が深いピアニカの音。千差万別に変化するギター演奏。幼少のころ、どこかで聞いた気もする。と同時に、初めて聞く斬新さもある。対照的な2つの音色が共鳴し合っているのだろう。

 はじめにきよしは、生活空間の中から音楽を発見している。雨上がりのスズメの声、木陰の休息、飛行機の搭乗時間など、どこにでもあるようだが、多忙な日常生活では見過ごしてしまう。「見慣れた風景からインスピレーションが生まれ、音楽が出てくる。いろんな場所に曲のヒントってあるんですよ」

 曲のほとんどは2人で持ち寄り、ワイワイと雑談しながら完成させていくという。

 アルバムに「夕暮れ時 豆腐屋が通る」という曲がある。誕生の経過ついて、新谷さんは「夕暮れ時に豆腐屋さんが町家の前を通り過ぎていく光景を思い浮かべた。京都に住んでいたら、よくある光景でしょ」と話す。

 夕暮れを表す静かなギターの旋律。「トーフ」という呼び声を表すピアニカの音色がかみ合っていく。誰かが鍋を持って家を出たのか、だんだんにぎやかになる。そして買い物が終わり、みんな帰って行く。豆腐屋さんも夕暮れを背に去っていく。記憶から切り取られた音の風景だが、どこかなつかしく切ない。

 新谷さんは「体験を持っている人は、僕たちの曲を通して、思いをふくらませていく。体験のない人でも想像を巡らせることができる」と語る。一方、サキタさんは「僕が表現したいのは、音の奏でる風景。絵を描いているような感じ。描きたいなっと思う風景によって、筆や色をかえる感覚に近い」とたとえる。

 さらに「僕たちは言葉を使わない音楽。言葉を使えば、ストレートにメッセージを伝えられる面もあるけど、使わない分だけ自由もある。聞く人の感性や思いに委ねてみたい」とサキタさん。

 例えば、次に考えている曲は、「寒い公園で飲む熱い缶コーヒー」と言う。作詞すれば、友達や恋人どうしで仲良く飲んだり、仕事で疲れたサラリーマンが1人でほっとしている場面などと限定される。しかし、言葉がなければ、その音楽は聞く人の数だけストーリーが生まれていく。

 新谷さんは「根底にある気持ちを伝えたい。目指すのはご飯ですね。トンカツだったら、好き嫌いがあるけど、ご飯なら毎日食べるでしょ」と笑いながら話す。

 聞いた人からは「風景ミュージック」「ほっこりしたメロディー」「スケッチブックのよう…」などと評される。一度聞くと、なかなか耳から離れないのも特徴だ。

 ライブ活動を続け、着実にファン層を広げている。来年に向けて、5作目のアルバムを企画している。「相変わらず」という部分を大切にしていきたいという。彼らが織りなす音の風景には、忘れたくない心の宝物が秘められている。

[京都新聞 2005年12月11日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

はじめにきよし
向日市在住のピアニカ奏者新谷キヨシさんと、堺市在住のギター奏者サキタハヂメさんが1995年4月に結成し、ライブを中心に活動中。CDアルバムは「はじめにきよし」「いえ」「はれ」「楽」の4枚。NTT西日本や富士火災海上保険などのコマーシャル曲をはじめ、映画「ぼくんち」やテレビ番組の曲にも使われている。

「はじめにきよし」が出している4枚のCDアルバム

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