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(5)安達久美 「ゴリラ ゴリラ ゴリラ」

肌で感じ舌で味わう音ユニーク感性 動物観察から曲


ライブで主役を務める安達さん。アイデアに満ちた楽曲は、観客や共演者をひきつける(京都市中京区・ライブスポットラグ)

 13日、京都市中京区のライブハウス。「ジェフ・ベック」モデルのエレキギターは、タンクトップ姿で奏でる細身の女性からは、想像できないうなりを上げた。

 曲名は「ゴリラ ゴリラ ゴリラ」。作曲者でギタリストの安達久美さん(28)に呼応して、ドラム、ベースギター、キーボードが大胆に低音を刻み、巨大なゴリラの存在感を示す。奏者は、ドラマー則竹裕之さん(41)ら国内屈指の実力者だ。

 曲はやがて高音域へ。テンポが速まり、会場の熱気も上昇する。見た目はおっかなくても、神経質で憶病な類人猿の一面を、演奏が鋭くとらえた。

 曲のモデルは東京・上野動物園のゴリラ。「30分以上観察していると、『見んといてくれ』とばかりに恥ずかしげに身体を隠そうとするんです。これは、曲のサビに使えると直感した」

 「楽譜の読み書きが苦手」なためでもあるのだが、曲づくりが一風変わっている。これまでの作った11曲すべてが、実体験の1こまからイメージをふくらませた。視界に入り、耳や肌で感じ、時には舌で味わった感覚を音で表現する。

 たとえば、高校時代に初めて手がけた「ダンジリ ファンク」は、だんじり祭りで有名な大阪府貝塚市の実家で生まれた。1日6、7時間をギターの練習に費やしていた自宅の隣が偶然にも、おはやしのけいこ場だった。祭り前の9月になると、夕方には、いや応なく太鼓や笛の音が耳に入る。「しかも、町内公認の大音量で」

 はじめは、祭りの音が邪魔で、作曲どころではなかった。「でも、おはやしのリズムは一定していて、次第に意識がもうろうとして心地よくなってくる。調子に乗ってギターと合わせている間に、曲が出来ていた」

 ジャズやフュージョンなどの洋楽では、だんじりのリズムは変拍子。曲は、小刻みなエレキギターの高音と、軽快なドラムが絡み合い、観客を一瞬、戸惑わせる。

 「この業界では発想できない不可解な調子だが、聞いているうちに耳についたリズムがはまってくる」と、安達さんを見い出した音楽プロデューサー須田晃夫さん(48)は、常識にとらわれない彼女の感性にほれ込んでいる。

 十数分に及ぶ大作「パンゲア」は、NHKテレビの特集番組から作った。題材は、火山の爆発や地震を再現した番組のコンピューターグラフィック。かつて地球上で唯一の大陸だったパンゲアが、地殻変動から5大陸となっていく壮大な時空を、ひずみを効かせたエレキの音で描いた。

 「ひずみは、演歌のこぶしのようなもの。音を出すのは簡単でも、曲のイメージに合うようにひずみをコントロールするは難しいんですよ」と聞きどころを語る。

 小学5年生のころ、あこがれていた5歳上の兄が弾き始めたのと同時に、エレキを始めた。

 「指の動きは、教則本を参考にする兄の見よう見まね。有名な曲を弾くのも完全な“耳コピー”で、まったくの我流でした」と振り返る。

 エレキを弾く女性は全国でも珍しく、それゆえの苦労も。「いい音の出るギターは首の部分が太く、男性並みの力がないと、しっかり操れない。でも負けず嫌いな性格なんで」。特訓の成果なのだろう。弦を押さえる指の腹は、その圧力でタコになっていた。

 男性ミュージシャンの牙城であるエレキギターの世界で、ガールズバンドの一員でもなく、ソロで活躍する彼女は、極めて異色の存在。女性であるがゆえの偏見もあるという。同業者のやっかみなのか「ギターの友人はあまりいないんです」と笑う。来春以降にはCDデビューも待っている。笑顔は、自信の表れでもある。

[京都新聞 2005年12月18日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

安達久美(あだち・くみ)
11歳からギターを始め、2年後に学生バンドの一員としてライブハウスに出演。19歳で渡米しロサンゼルスの音楽学校で学ぶ。3年前に活動の拠点を大阪から京都に移し、今年5月に人気ドラマー則竹裕之さんと組んだ「クラブ パンゲア」を結成し、11月に京都会館で初のホールコンサートを開いた。「クッキーモンキー」「キャッチボール」などの作曲がある。

「自分の感性を信じて、今後も曲づくりに励みたい」と話す安達さん

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