The Kyoto Shimbun

(7)山口洋輝 「グシャノビンヅメ」

非日常空間への逃避行「ぐしゃ」と壊れる 現代社会の縮図


映画「グシャノビンヅメ」の一場面。極限状態に置かれた人間の怖さを描いた

 138階層は貧民と精神病院の街「コロバザジップ」、99階層は囚人と監獄の街「ビタガスコイン」…。外界と隔絶された世界。何百層にも連なる居住区があり、住人たちはエレベーターのような交通機関「移動機筒」に乗って移動する−。

 SFサスペンス映画「グシャノビンヅメ」が始まると、その奇妙な世界に観客は戸惑う。「ここはどこなのか。全く知らせずに始め、観客に想像してもらう。変な名前の街や人物が出てきて、多くの人は近未来の話だと思う。でもそうじゃない。テーマは『思い込み』です」。監督の山口洋輝さん(27)は言う。

 物語の舞台は、主人公の女子高生・藤崎ルキノをはじめ、囚人や主婦、テロリストのような科学者らが乗り合わせた「移動機筒」。その中で突然、惨劇が始まる。密室で、極限状態に追い込まれる人々。血が吹き飛び、叫び声は押し殺される。常識とは何か。移動機筒はどこへ行くのか。最上階には一体何が。謎のまま展開していく。

 「非日常の不気味な空間を作りたかった。僕にとって映画は現実逃避。上映の間だけでも現実と違う世界に連れて行ってくれるもの。そんな思いを込めた」

 観客を現実に戻さないため、細部まで工夫を凝らす。セットや小道具は今を感じさせるものを排し、徹底的に作り込んだ。機械じかけのエレベーター表示、ナチス風の警察官の制服、乳母車などレトロ調の中に、ロボットのような奇怪なペットを登場させる。血のりや死体にもこだわった。ハリウッドで活躍する専門家に特殊メークを依頼した。

 タイトルの意は「愚者の瓶詰」。「移動機筒の密室や閉じた居住区のことだけでない。閉塞感がある今の社会も視野に入れ、『ぐしゃっ』と物が壊れる擬音をかけた」。設定は架空の世界だが、表現は辛らつ。物語は現代の縮図としてつづった。

 立命館大1年の時に撮った作品が自主映画コンテストのグランプリに輝き、その特典で今回の映画の製作機会を得た。

 始動は同大映画部で部長をしていた4年の秋。脚本を練り上げるとともに、部の仲間の協力を得、スクラップ工場からセットや小道具用の廃材を集め、西陣の町家で組み立てた。当初、撮影も京都でと考えたが、適当な場所がなく、休学して仲間と東京へ。六本木のビルの地下、閉店したバーで撮影を始めた。俳優やカメラマンもすべてプロだ。「撮影終了まで半年間は役者、スタッフとほぼ合宿状態。きつかった。監督は人を動かす仕事だと身に染みて感じた」

 劇場デビューとなった映画の評価は高い。昨年まで全国で公開され、海外18の映画祭にも出品。カナダのモントリオール・ファンタジア映画祭では、既成概念を破った新鋭の監督に贈られる「グランドブレーカーアワード銀賞」に輝いた。

 京都で生まれ、幼いころから絵を習った。小学生の時はSF好きの父と映画を見、多数のノートに漫画を描いた。手塚治虫や大友克洋、松本大洋の作品を読みあさり、漫画家を志したこともある。「家ではテレビゲームが禁止だったので、SF漫画を読んで空想にふけった。今思えば、この体験が映画作りに生きているのかもしれない」。大学卒業後、「映像で食べていく」と決め、東京へ。だが、何より力を入れる脚本は京都で書くことが多い。映画を一緒に作ってきた仲間と会い、刺激を受けるためだ。

 今、海外は日本のアニメ、SFブーム。「グシャノビンヅメ」は今年から米国に加え、ドイツやイギリスでも劇場公開やDVDの販売が始まる。

 「僕の映画はどこかアニメ的。あの世界自体はどこにもないから逆に、国境を超えて受け入れてくれる。国によってどんな見方をされるのか、楽しみ」

 京都で磨いた独自の感性を武器に、世界を見据える。

[京都新聞 2006年1月8日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

山口洋輝(やまぐち・ひろき)
映画監督。京都府生まれ。大学1年から映画製作を始め、19歳で監督した2作目の自主製作映画「深夜臓器」で第2回インディーズムービー・フェスティバルグランプリ受賞。3作目の「ハテシナイタメイキ」では関西CFP99グランプリ、京都シネック2000最優秀賞を受賞した。昨年、「深夜臓器」の劇場用リメークが決定。脚本を大幅に書き替えし、今年中の完成を目指している。

「廃虚のような変な街が大好き。写真を見ているだけでインスピレーションが沸いてくる」と話す山口さん(京都新聞社)

記事一覧

Copyright(C) 1996〜2006 The Kyoto Shimbun Co.,Ltd.