The Kyoto Shimbun

(11)ヤザキタケシ 「ブルータイム」

京すだれの異空間で「間」を日本的世界支える 高度なテクニック


「ブルータイム」の一場面

 薄暗い舞台に、4枚の京すだれがつるされている。その後ろで、しなやかに身体を伸ばす男性2人と女性1人。照明の微妙な加減で、その姿がシルエットとなって見えたり、すだれに完全に隠れたりする。

 3人のダンサーは、時に歩み寄り、時に離れる。跳んだり、互いに身体を預けたり。3人、2人と1人、そして1人…。めまぐるしく変わっていく関係。身体で会話しているかのようだ。

 「ブルータイム」は2003年11月、パリで初演された。日本独特の「間」の概念をテーマにした作品は、目の肥えたフランスのダンスファンに、熱狂的に受け入れられた。3日間の舞台はすべて満席。カーテンコールの拍手が鳴りやまなかった。

 「海と空、夜と朝。間には常に深いブルーがある。目に見えないけれど、そこには深い何かが埋まっている−。そんなイメージから始めた」

 ヤザキタケシさんは言う。かつての日本にあった思いやりや温かさ。人と人との間にある大切なもの。「それを表現したかった」

 当初は演劇を志していた。京都の大学に在学中の1981年、俳優養成所に入所。翌年、ジャズダンスも始めた。劇団にも所属したが、次第に「ダンスには、よりグローバルな可能性と抽象性がある」との思いが強くなった。

 89年、本格的にダンスを学ぶため、ニューヨークのアルビン・エイリー・ダンスシアターに留学。帰国後、「コンテンポラリーダンスの母」スーザン・バージとの出会いが一つの転機となった。確かなテクニックが認められ、日本人ダンサーと雅楽を使ったダンスプロジェクトに加わる。

 「スーザンは『日本人はスピリチュアル(精神的)』と言い、『間』の大切さや日本の精神を逆に教えてくれた」

 決して恵まれた体格ではない。外国人ダンサーと比べ、コンプレックスも感じることもあった。だが、「日本人としての身体を見つめ直し、そこから出てくるもので、素直に作品をつくればいい」と気付いた。

 その中で生まれたのが、99年に発表したソロ作品「スペース4.5」だ。舞台上に白いビニールテープを張って空間を区切り、その中で踊り続ける。

 ヨーロッパのダンスは、広い空間をいかに使うかが主流。閉塞した空間で、喜怒哀楽をはじめ無限のイメージを膨らませていく手法は斬新で、フランスでたちまち話題となった。

 「ブルータイム」も、その延長上にある。京すだれが織りなす異空間で、3人のダンサーによって世界が広げられる。

 「正統派のコンテンポラリーダンスでありながら、日本的な要素を持ったカンパニーは初めてだったのでは」。ヤザキさんは、欧米での人気の理由を自己分析する。「神秘的」とも見える作品の世界を支えるのは、「全身がロープのようにしなる独特のムーブメント」と欧米から評される高度なテクニックだ。

 とはいえ、ヤザキさんの作品は決して難解ではない。昨年末、兵庫県伊丹市で行われた「ブルータイム」公演では、途中で客席にジョークを飛ばす場面もあった。クールな表情で繰り出すコミカルな動きに笑いも起こった。「アーティストではなく、エンタテイナーの部分を大事にしたい」と穏やかに語る。

 「コンテンポラリーダンスは、見る人に想像力が必要。だから、他のジャンルと比べて難しいと思われている」のが歯がゆい。「でも、それこそがコンテンポラリーの魅力。受け取るお客さんの想像力で自由に見てもらえばいい。想像力を刺激する作品をつくっていきたい」

[京都新聞 2006年2月5日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

ヤザキタケシ(やざき・たけし)
ダンサー・振付家。香川県生まれ。1981年から演劇を始め、後にダンスに転向。97年からアローダンスコミュニケーションを主宰。98年バニョレ国際振付賞ノミネート。以降、海外からの招待公演多数。海外の振付師とのコラボレーション、国内での公演、ワークショップなども精力的に行っている。京都市在住。

「日本の良さを大事に、作品をつくりたい」と語るヤザキさん

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