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(15)南澤伸 「スタンド・バイ・ミー〜機巧的人生模様」

奇怪な人形が生み出す笑い古典的素材でCG 新たな世界創出


「スタンド・バイ・ミー」の一場面

 登場人物は、からくり人形「弓曳(ゆみひき)童子」と、その持ち主の老人。童子は幕末の発明家・田中久重作の逸品だが、まるで感情を持っているように擬人的に描かれる。老人は度の強い丸眼鏡をかけ、ももひきに腹巻き姿。「スタンド・バイ・ミー〜機巧(からくり)的人生模様」は、2人の微妙な感情のズレをコミカルに描いたコンピューターグラフィックス(CG)のアニメーションだ。

 矢台の矢をつかみ、弓につがえ、的を狙って射る−。童子の矢は4本。この4回の射的に物語の起承転結が重なる。1本目は見事に命中、2本目は的を外れて老人の怒りを買う。その後、突然、地震が起こり、3、4本目は予想外の展開を導く。地震の激しい揺れの中で2人は混乱するが、互いの感情がすれ違い、うまく助け合うことができない。

 「災害発生時、頼れる人がそばにいるとは限りません」。こんな字幕で終わる、おかしくも少し切ない5分38秒のドラマ。「日本人形という古典的な素材と笑いのアンバランスを狙った。でも、ただ楽しい作品にするだけでなく、防災へ意識を促すようなメッセージも同時に伝えたかった」と制作者の南澤伸さん(29)は言う。

 「弓曳童子」は、神戸のオルゴールミュージアムが展示していた複製人形をビデオ撮影し、参考にして描いた。見どころは、その表情だ。ふつうCGでは顔の動きでキャラクターの感情を表すが、人形のリアルさを再現するため動きを出さず、光の陰影のみで表情を作った。

 「ライトの加減や角度によって本物の質感が失われることもある。リアルさを保ちつつ、こっけいな表情をどう作るか。この絶妙なバランスを探っていくのに、相当な時間をかけた」

 怒り、あせり、喜び、悲しみ…。さまざまな感情を映す表情はユニークで、時に怖い。魂を宿しているかのようだ。「人形は一つの顔しか持っていないが、いろんな解釈を可能にする表情でもある。見る人に物語に入り込んでもらうため、ドキっとするほどの不気味さが必要だった」

 作品は、大学卒業後にバイトをしながら通ったCG専門学校の卒業制作。世界に3体しかない「弓曳童子」の実物を東京の博物館で見た時、ストーリーが自然に浮かんだ。卒業制作は期間が2カ月と短く、出来たのは童子の動きの部分だけ。「どうしても物語を完結させたい」と就職活動をせず、亀岡市の実家で制作に打ち込んだ。

 佳境を迎えた時、新潟中越地震が起きる。地震は笑いをつくる大事なネタだった。「このままお笑いムービーとして世に出していいのか。被災者の心を逆なでしないか」。2週間、作業が手につかず、悩んだ。当初の地震の揺れを抑え気味に修正し、防災をメッセージにすることで気持ちを切り替えた。

 作品の評価は高く、昨年「ユナイテッド・シネマCG&アニメーション・フィルム・フェスティバル」で準優勝。今年の「東京ビデオフェスティバル」でも優秀作品に選ばれ、「まさに奇怪きわまる人形の短い人生」と賞賛された。

 高校時代から映画や映像に関心があった。好きな映画監督はフランスのパトリス・ルコント。「ホラーでもない。ロマンスでもない。シニカルな笑いにかなり影響を受けた」。非日常的なキャラクターを日常の1コマに置く。壮大な世界観を前提にするSFより、日常の中から新たな世界をつくり出すことにこだわっているという。

 昨年末、京都を離れて東京へ。「やりたいことを達成するには、アニメ技術の修業がもっと必要」と、プロダクション入りを希望する。「将来は命の尊さをテーマにしたい」。自分を信じ、新たなステージを見つめる。

[京都新聞 2006年3月5日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

南澤伸(みなみざわ・しん)
CGクリエーター。1976年長岡京市生まれ。近畿大文芸学部在学中から映像や映画関係の授業を受ける。卒業後、コンビニでアルバイトをしながらデジタルハリウッド大阪校などの専門学校で3DCGの技術を学び、本格的に制作活動を始める。これまでに本作をはじめ、コマーシャル作品など3作を手掛けた。

「不気味さと笑いをミックスするのが僕の持ち味」と語る南澤さん(東京都南区)

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