The Kyoto Shimbun

(22)栗田やすお 「緑玉紳士」

ギャグ、スピード感、遊び心パペットアニメ 娯楽性で新風


「緑玉紳士」の一場面

 緑色の顔をもち、しま模様の服を着たメガネ屋グリーンピースが、変わり種メガネが詰まったトランクを、悪魔ジョーカーに奪われる。命より大事な商売道具を取り戻すそうとジョーカーを追いかける主人公が、悪魔の世界で騒動を巻き起こす。

 テンポのいいジャズのリズムにのり、20世紀初頭のニューヨークを模した舞台で、とぼけた味わいのキャラクターたちが、小気味よく走り回る。シュールなギャグとスピード感、遊び心が満載の娯楽映画だ。

 栗田やすおさん(31)の劇場第1作「緑玉紳士」。従来のパペットアニメーションにない娯楽性が話題になった。

 パペットアニメとは人形を使った古典的アニメの一つで、1秒間に15コマのコマ撮りで動画にする。小中学生が教科書の隅に描いて遊ぶパラパラ漫画の立体版と考えれば、分かりやすい。

 ただ1コマごとに部品を取り換え、動かして撮影する苦労は並大抵ではない。栗田さんは、人形とセット造形、脚本、カメラ、編集をほぼ1人でこなした。完成までに4年半。「主人公、敵役とも頭部は40個。撮影は似た作業の繰り返しで、精神的につらかった」

 手間と愛情をたくさんかけた映画はワクワク感でいっぱいだ。便器の水と一緒に流れ、貯水器に現れる主人公。牛の骨はおいしそうなステーキに。豊かな表現と奇想天外なアイデアが、おもちゃ箱をひっくり返したようにあふれ出す。

 「せりふのない映像で物語が分かる映画こそが素晴らしい」。ある有名監督の言葉だ。本作のキャラクターたちは「ワァ」「キー」と、意味不明な言語を口にするだけ。なのに48分間、目を離させない。

 スピード感のある画面を丹念な演出が支える。ヒチコックばりの緊張感ある展開、自在に視点を変えるカメラワーク。漫才を思わす「間」のうまさは関西人ならではだ。

 京都精華大在学中にパペットアニメ映画「ウォレスとグルミット」に出会い、自分の将来を見つけた。人形の製作方法に触れるため京都造形芸術大のカリキュラムを受講した。豊かな表情や質感、多彩な動き…。映画で使える人形にするため独学で試行錯誤を重ねた。

  その際、幼少時から培った器用さが生きた。小学1年の時、過熱する人気で「ガンダム」プラモデルが入手できず、厚紙で自作するほどだった。2005年の本作公開にあたっては、関連商品の原型製作も手掛けた。

 本作の試作版ビデオを作ったのは、大学を卒業して2年後の1999年だった。就職活動のつもりで関係先に配ったところ、映画プロデューサーの目に止まり、製作が決まった。当初はDVD販売だけの予定だったが、作品の高い完成度が映画上映に結びついた。

 だが、努力と根性で切り開いた道には、影も差した。東京での興行不振で批判を招き、慣れない宣伝活動も重なって体調を崩した。また米大手アニメ配給会社がいったん伸ばした触手を引っ込めた。理由は中途半端な上映時間だった。「短編なら35分以下、長編は70分以上。48分では興行にならない」

 一方で、ファンの支持に勇気づけられた。「夏休みの工作で主人公を作ってくれたらしくて」。児童の写真付きの手紙が自宅の壁を飾る。

 「『緑玉紳士』は自信作だが、今見ると甘さも目立つ」。説明不足のストーリーや単調なリズム、テーマ性の不足…。「今ならより上手に作れる」。劇場公開後に発売されたDVDには本作のほかに、新たに製作した短編(2分間)10本が入る。間の使い方や物語の語り口に、進化した技術を見せる。

 「緑玉紳士」はシリーズ第1作。次回作の期待も膨らむが…。「今度は3DのCG(コンピューターグラフィックス)に挑戦したい」。デジタル画像にアナログ的な要素を持ち込み、新感覚のCGを生み出したいと意欲を燃やす。

[京都新聞 2006年4月23日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

栗田やすお(くりた・やすお)
アニメーション・クリエーター。1975年高槻市生まれ。京都精華大卒。同大の卒業制作で作ったカットアウトアニメ「ロボロボ」(97年)が東京ビデオフェスティバル、ハンガリー国際映画祭などで受賞。バンクーバー、ロッテルダム両国際映画祭に正式出品される。現在、専門学校で講師を務める。高槻市在住。

「自分が子供のころ見たかった。そんな作品に仕上げました」と自作を語る栗田さん(高槻市の自宅)

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