The Kyoto Shimbun

(24)平田あゆみ 「うたう劇場」

音楽で詩の情景を増幅日本語の豊かさ 味わえる声楽に


「うたう劇場」の歌芝居。ピアノ伴奏にあわせて谷川役のテノール歌手(中央)と大岡役のバリトン歌手(右)が会話を繰り広げる(京都市上京区・府民ホールアルティ)

 1台のピアノだけが置かれたステージ。その前で詩人・谷川俊太郎役のテノール歌手と、批評家・大岡信にふんするバリトン歌手がピアノ伴奏にあわせ、軽妙な会話を繰り広げた。

 「金、銀、鉄、アルミニウムのうち、最も好きな物は何ですかあ」。伸びとつやのある声でテノール歌手が尋ねると、バリトン歌手が重く低く、ゆっくりと答える。「俺は鉄です」

 谷川さんの著作「大岡信への33の質問」を題材に、平田あゆみさん(45)が曲をつけ、声楽作品に仕上げた。もとは男友だちの何げない会話。叙情やドラマはなく、歌もない。「歌わない歌芝居」だ。しかし、聴衆は、その一つ一つの日本語が持つ音の豊かさや深さに気づく。

 「言葉には高揚や音韻、リズムなどがあり、音の性格は音楽と共通している。言葉は音楽性を内包し、音楽には言語性があるんです。それを一致させれば、早口な日本語でもちゃんと聴き取れ、歌芝居ができる」

 「うたう劇場」は、平田さんの声楽作品を集めた実験的なコンサート。現代の新しい日本歌曲を模索しようと、2001年から隔年で府民ホール・アルティ(京都市上京区)で開く。歌芝居をはじめ、詩人の作品、童謡集などを実力派の声楽家らがソロやコーラスで披露する。

 ステージは驚きの連続だ。声楽と聞けば、歌手が朗々と歌う芸術歌曲を想像するが、童謡はテンポがあり、ジャズ風の曲も。「恋するくじら」と題した曲は歌手の表情やしぐさに、聴衆から思わず笑いがこぼれた。

 山田耕筰や滝廉太郎を筆頭にする日本歌曲。その伝統の上に立ちながらも、平田さんは挑戦的だ。「昔の曲はほっこり感はあるが、わくわくドキドキしない。歌手にスリルを与え、聴き手にいかにおもしろいと思ってもらえるかが重要」

 歌の持ち味を生かすには曲のほかに、詩、つまり日本語の力が不可欠と考える。曲をつける素材をどう見つけるか。

 谷川さんの詩集を読みあさり、童謡や外国の邦訳詩にも関心を広げる。いい詩とは何よりリアリティーと力があること。

 「文章の向こうにいろんなものが見え、香ったり、体温もあるもの。私の五感が働く」

 ワンフレーズが短く、言葉自体に瞬発力がある作品にひかれる。そんな詩は目にした途端、言葉から音の流れを感じ、口ずさめる感覚があるという。

 連作歌曲「漆工房にて」は、京都の蒔(まき)絵職人が発表した詩に心動かされ、「漆工芸の奥深い世界を歌曲に結晶させたい」と願い出た。曲作りはまず、詩に込められた作者の気持ちを読み取る。そして、「一度聴けば、詩の内容や情景などすべてが脳の中に浮かぶようにする。音楽で、立体的に増幅する」ことを目指す。

 大阪府出身。京都市立芸術大で、現京都コンサートホール館長の廣瀬量平さんから作曲法の指導を受けた。が、卒業後、すぐに結婚し作曲をやめる。再び始めたのは32歳の時だ。

 「車の教習所に通っていた時、学生時代の学ぶ喜びを思い出した。こみあげる思いは、書く(曲をつくる)ことによってしか抑えられなかった」

 以後、本格的に打ち込み、日本歌曲コンクール最優秀賞など声楽作品のコンクールで受賞を重ねた。この間、短歌結社「塔短歌会」にも入会。言葉のエッセンスや重みを学び、曲作りに役立てた。これまで発表した声楽作品は100曲を超える。

 合唱曲などの制作依頼も多いが、力を入れたい仕事は自分で練り上げる音楽会という。「コンクールで賞をいただいても満足できなかった。『うたう劇場』でお客さんの反応にふれることが、一番うれしい。それが創作のエネルギーになる」

 大勢の人と音楽を楽しみたい−。そんな素朴な願いが、平成の日本歌曲を生み出す。

[京都新聞 2006年5月7日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

平田あゆみ(ひらた・あゆみ)
作曲家。1960年大阪府生まれ。京都市立芸術大卒。声楽曲「トルコ紀行」で、1998年に日本歌曲コンクール最優秀賞と全音楽譜出版社賞を受賞した。「うたう劇場」では昨年度の大阪文化祭奨励賞を受け、昨秋初めてCD化。楽譜の出版は「平田あゆみ歌曲集1〜3」など多数。現在、京都市立音楽高で講師を務める。京都市西京区在住。

「日本歌曲の伝統の上に立ち、しかも昭和の歌曲とは違う平成の歌曲を作るのが今の作曲家の仕事」と話す平田さん (京都新聞社)

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