The Kyoto Shimbun

(26)濱口桜子 「おとうさんのぱんつ」

生活の中、心に残った物を心に残った物を 描きたいように ほんぽうで繊細


第1回「みずゑ賞」を受賞した絵本「おとうさんのぱんつ」の一部=画像クリックで拡大表示

 「えっ、これが作品」。意表をつかれる絵は、まるで落書きのように見えた。人物や奇妙なモノがごちゃごちゃと描き込まれているさまは、実は微妙にバランスがとれている? 「ヘタうま」と言おうにも、うまさは狙ってないような。それでいて色づかいや線は勢いがあり、のりにのっている。不思議だ…。

 「そのまんまの絵なので、あまり考え込まずに見てもらえれば」。濱口桜子さん(25)は話す。深読みは禁物、なのか?

 濱口さんは、紙に描くアクリル画や、最近では布を素材にしたぬいぐるみのような立体、それに絵本も作り、京都や東京で個展を開いている。2年前、美術家の村上隆さんが主宰して開いているアートイベント「GEISAI」で金賞を受賞。昨年は、美術出版社の第1回「みずゑ賞」に応募した絵本「おとうさんのぱんつ」が大賞と、受賞が相次ぐ。「おとうさんのぱんつ」では、審査員の飯野和好さんら第一線の絵本作家が「天才が現れた」と絶賛した。

 「天才だなんて、とんでもない、恥ずかしい」と、目を丸くするさまは、本当に恐縮しているよう。京都嵯峨芸術短大の現代絵画コースを卒業。それで、作品には作者の意図や計算といったものがあるだろうと質問を投げかけたが「コンセプト(構想)がないと描けないという思い込みが、卒業して2、3年で抜けてきた」と、逆の答えだった。

 卒業しても絵を描き続けようとは思ったが、作家になろうとか強い思いがあったわけではない。アルバイトをしながら絵を描いているうちに「だんだんと楽に描けるようになってきた」。とりわけ影響を受けたのが奈良美智さんの絵だという。2頭身の少女の絵などを描く奈良さんの絵に「こんなフワフワした絵が」と、絵の描き方を見直したという。

 「奈良さんに会いたくて」と、目指したのが、奈良さんが審査員の一人を務める「GEISAI」だった。2002年、初めて友人とのユニットで出展、段ボールの家をつくり、絵はがき大の絵をつるして売るという作品を展示したところ、「奈良美智個人賞」に選ばれた。遠い存在と思っていた奈良さんから「初心を忘れず描き続けて」と声をかけられたことが、今も忘れられない体験という。

 生まれも育ちも伏見。小学校のときは授業が好きではなく「一人で空想にふけるのが好きな子だった」。しかし、近所で開かれていた絵画教室では、のびのびと描いて楽しんでいた。この体験が、「描きたいように描く」という原体験になっているという。

 「ちょっと変で面白いものが好き」。「おとうさんのぱんつ」は「パンツの形が面白いなあと思って描いているうちに、話ができてきた」。

 物語は、主人公の少女はだかちゃんの誕生日に、遠くの海で仕事をしているお父さんからプレゼントが届く。ところが、ケーキと入れ間違えて入っていたのはお父さんのパンツ。でも、パンツとはだかちゃんたちはすぐに仲良くなり、家族のように一緒の暮らしが始まって…と展開する。はちゃめちゃだが、何か、納得させられるものがある。娘をもつお父さんは、きっと励まされることだろう。「裸とかパンツとか、普通は恥ずかしいものでも、絵だとためらいなく描ける」。このあたりに強さがあるか。

 日々の生活の中でわくわくすること、心の中に残ったものを描くという。一方で「深海魚とか、光が当たらないところにいるのに色がきれいだったりして面白い」と、自然の中の異世界にも興味が。絵には「かわいい」だけでなく「不思議」「怖い」と感想もあり、「陰があるからいい」と応援してくれる中年男性のファンも。ほんぽうなようで繊細。花盛りの感性。

[京都新聞 2006年5月21日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

濱口桜子(はまぐち・さくらこ)
1981年京都市生まれ。京都嵯峨美術短期大卒。2002年、「GEISAI―2」(2人組で参加)で奈良美智個人賞、04年「GEISAI―5」で金賞。05年、絵本「おとうさんのぱんつ」が「第1回みずゑ賞」大賞。23日から6月4日まで、SELF―SOアートギャラリー(京都市上京区六軒町通今出川上ル)で、「おとうさんのぱんつ」などみずゑ賞受賞作展覧会が開催される(月曜休廊)。

「生活の中でわくわくすることを描く」という濱口桜子さん(京都市東山区・ギャラリーはねうさぎの個展会場)

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