The Kyoto Shimbun

(29)井村征爾 「叩く女」

傷つき癒やされる心模様を豊かな滋賀の 風景を重ねて…


「叩く女」の一場面

 まず、たたく。とにかく、たたく。とりあえず、たたく。

 くじ付きアイスが外れれば頭をはたき、車の発進を促すために後頭部を小突き、花をもらえばほおをひっぱたく。

 「インパクトがあるキャラクターを作ったら、頭の中で勝手に話が転がっていく。自然に物語が浮かびました」

 「叩(たた)く女」は「青春組立式キット」のグループ名で映像を撮り続ける井村征爾さん(31)の代表作だ。若手映像クリエーター発掘を目的としたPJ映画祭で「テアトル池袋賞」も受賞した。

 物語の中心は、たたくことでしか自分を表現できない20代半ばの女性と、たたかれることでしか女性を受けとめられない男性。傷つき、癒やされる2人の心模様を描く映画は18分間という短尺ながら、見る人に心の旅路に連れ出す。心を締め付け、笑わせ、突き刺す。そして最後には幸福感が待っている。

 「今までは、もてない男が好きな女ができてふられる、そんな物語が多かった。初めて女の子を主人公にすえたので、やっぱりハッピーに終えるようなものを、と」

 井村さんは映像作家として短編の自主映画以外にも、プロモーションビデオや、結婚式、イベントの記録なども手掛ける。取材に先立ち、「叩く女」以外に6作品を見せてもらった。どれもこれもキャラクターが際立ち、「愛」があふれる。

 「ありがとうございます。僕のテーマは『青春』で一貫してまして」

 「青春組立式キット」は1996年、京都芸術短期大(現京都造形芸術大)の専攻科のとき友人2人と立ち上げた。

 「恋愛や希望、友情など使い古されたけど決して朽ちない青春のパーツを、独自の接着剤で組み立て直す」。いつまでも感じる心を持ちたい。そんな思いがチーム名に反映する。

 「心にグッとくる作品を作る。それはすてきで、楽しいから」。自分がカメラ越しに味わった感情を、見ている人にも同じように体感してほしい。

 今の若い監督はセンスがすごい。でも観客側に立ってない−。井村さんの話を聞きながら、かつて取材したベテラン俳優が「邦画がダメな理由」の一つにあげていたことを思い出した。この青年映像作家は自分の世界観の殻にこもらず、自分の感動を伝えようとする、熱さがある。

 「映像って気持ちで撮る部分って大きいと思いますから」。例えば、ある結婚式の記録撮影。新婦の父親が花束を渡されるとき、目に涙がたまっていく。「そのとき、アップでググッと寄りたくなるでしょ」。ついカメラ越しにもらい泣きするのは、ご愛敬だが。

 「ただね、映像製作者として基本的な技術は学ばないといけないんですけど」。撮影法やシナリオ作りの基礎を短大で学んだ以外は、ほとんど独学という。しかし本人の口ぶりとは裏腹に演出は、繊細で巧みだ。

 実は「叩く女」は、せりふがほとんどない。それでも画面には主人公2人の感情があふれ出す。表情やしぐさ、動作の間など演技はもちろん、ぬいぐるみや花といった小道具が効く。何より背景の使い方が秀逸だ。琵琶湖や風車、青々とした水田…、豊かな顔を持つ滋賀の風景を登場人物の心模様に重ねてみせる。

 叩く女があれば、蹴(け)る女もあっていいでしょ−。友人の冗談が盛り上がって作った「蹴る女」は昨年、東京・大阪で公開し、好評を得た。本年度中には京都でも劇場上映される予定だ。

 「映像を作りながら多くの人に知り合い、それが作品作りにつながっている」。いま映像作家として歯車が徐々にかみ合いつつある自分を感じている。インディーズの巨匠大林宣彦に「将来日本の映画界を背負って立つ」といわれた才能が間もなく、花開く。

[京都新聞 2006年6月11日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

井村征爾(いむら・せいじ)
映像作家。1974年大阪府生まれ。京都芸術短期大専攻科修了。96年に「青春組立式キット」を結成して活動を開始し、これまで自主映画など50本を製作、上映した。99年に「あの人(故郷の話)」が「ふるさとビデオ大賞」に選ばれるなど受賞多数。近作に「蹴る女」「僕らの未来は明るいか!?」など。草津市在住。ホームページはhttp://www.biwa.ne.jp/~imu/

「熱い人が大好きなんです。その熱さを映像で伝えたい」と話す井村さん(京都新聞社)

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