The Kyoto Shimbun

(31)魚村晋太郎 「言語パフォーマンス」

朗読で広がる言葉の可能性詩・俳句・短歌…貪欲に変化して


気の向くままショット・バーでもミニ朗読会を開く。この日は俳人や歌人を前に、歌集「銀耳」から朗読(17日、京都市下京区の「図書館」)

 歌人が集まる大阪市内のビルの一室。持ち込まれた音源から魚村晋太郎さん(41)が朗読する宮沢賢治の詩「春と修羅」が流れる。と、同時に魚村さんが自分の詩を読み始めた。「魚村さん/最近…しか電話してきませんね/…期待してなくても/がっかりすることは…/お伺ひできません…」。賢治の有名な詩と魚村さんの作品が干渉し合い、耳を澄ます聴衆には軽い戸惑いが広がる。さらに魚村さんは、その場でスピーカー付の携帯電話で177に電話する。「ピンポンパンポン 盛岡地方気象台発表の…」。賢治ゆかりの花巻地方の気象情報がリアルタイムで会場にアナウンスされる。3つの音声が重なり絡まりあって1つの世界を醸しだす一方で、詩も気象情報も断片的にしか聞き取れない。

 聴き手は斬新な音声世界に身を委ねたかと思うと、また言葉の伝達機能に引き戻される。かすかな緊張といらだち。聞き終えて、言語の機能と表現について考えてしまった。

 関西の若手歌人に呼びかけ、今春から年1回ペースで始めた短歌の朗読の会「声の領分」で、自作短歌の朗読とともに披露した試みだった。

 学生時代から文学に関心を持ち、同人誌で詩や散文を発表していた魚村さんは、20代後半から現代詩の朗読に傾倒。ギャラリーやイベント会場で自分の作品を数々読んできた。空間や聴衆の存在がパフォーマンスや他ジャンルとのコラボレーションを可能にし、活字媒体よりも表現の範囲が広がった。聴き手側に回ってみると、最初はほとんど聞き取れなかった難解な現代詩が、朗読会を何年も続けるうちに、ある時期からどんどん聴こえ始めるという体験をした。

 「言葉はさまざまな可能性を持っているのに日常ではごく一部しか使っていない。刺激や訓練で見過ごしていた言葉の機能に気づくと、言葉で表現する者としては無視するのはもったいないと思うようになった。音声はその大きなひとつ」

 30代になり俳句、短歌の世界に踏み込む。同じ韻文でも詩形によって言葉の能力の引き出し方に特徴がある。違う詩形のなかで創作をすることで力をつけたいという思いもあった。

 ネット句会を続けつつ、短歌は短歌結社「玲瓏(れいろう)」に入会。塚本邦雄に師事し本格的に取り組む。公募賞にも挑み、2001年は短歌研究新人賞の次席、翌年は角川短歌賞の次席に。03年に出版した第一歌集「銀耳」は現代歌人集会賞を受け、歌人として評価を得た。

 歌会では、毎月参加者の作品を読み上げている。長年読んでいると、声に出すことで作品の出来不出来も感じ取れるようになってくるという。魚村流に言えば「声に出して読むことで音韻やリズムだけでなく、意味のプロポーション(体形)が分かる」。

 現代詩の朗読と短歌の朗読は、音声が発揮する機能に微妙な違いがあるようだ。短歌朗読は詩形と音声の関係や、伝統に新しいものをつなぐところから生まれる表現をはぐくむ。

 短歌はほとんど活字媒体だった魚村さんだが、歌の世界に積極的に朗読を持ち込むことにした。気の向くままにショットバーなどでミニ朗読会を開く。「声の領分」では、アララギ系歌人もネット歌人も一緒に、短歌を読み直し聴き直すことで短歌の言葉の可能性を広げようとしている。定型が自然にまとう七五調のうねりを意識的に消そうと、切れ目を変えて読んだり、淡々と読む。いずれはもっと実験的なことも、と想を練る。

 朗読だけでなく、今秋までには短歌に写真、その写真に短歌と付けて連句のようにつなぐ“異種連句”もホームページ上で展開する予定だ。「言葉の可能性に貪欲でありたい」。変化を続ける魚村さんの現在の心境だ。

[京都新聞 2006年6月25日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

魚村晋太郎(うおむら・しんたろう)
詩人・歌人。1965年川崎市生まれ。京都大理学部中退。91年から現代詩のリーディングやパーフォーマンスを中心に活動。短歌・俳句・連句の実作をはじめる。96年「玲瓏」入会。歌集「銀耳」(砂子屋書房)で2004年現代歌人集会賞受賞。京都芸術センターで短歌のワーク・ショップ講師や能とダンスのコラボレーションの脚本もてがけた。「玲瓏」編集委員。現代歌人協会、現代歌人集会会員。京都市上京区在住。ホームページはhttp://www2.odn.ne.jp/uoshin/

第1歌集の「銀耳」。帯は塚本邦雄、解説を岡井隆が書いている

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