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(32)集治千晶 「胸に咲く華−リバティ・プリント」エネルギー放つ 心の曼荼羅緻密さが裏打ち 表情豊かな線
ピンクやオレンジ、紫…。カラフルで透明感漂う画面は、躍動感と解放感にあふれている。 近づくと、銅版画特有の線や点の微細な表情が現れ、見る者をぐいぐいと引き込んでいく。無数の線は一見、自由奔放。それでいて理知的な雰囲気があるのは、緻密(ちみつ)な計算がなされているためだ。メルヘンのような華やかさの中に、作者の強い意志が繊細に、ダイナミックに映し出される。 集治千晶さん(33)の「胸に咲く華−リバティ・プリント」。京都市美術館(左京区)で6月22日まで開催された「2006京展」に出品、京都市長賞と市美術館賞に輝いた。 タイトルの通り画面は花(華)で埋まるが、モチーフは花ではない。「自分の胸のあたりからエネルギーを放出している感覚になる時がある。心が躍った時や悲しい時もそう。そのエネルギーが放射線状に伸びていくイメージを花に例えた」と集治さんは話す。 描画、製版、印刷の各工程を踏む銅版画は、ニードル(鉄筆)でひっかくことで生まれるデリケートな線や、油性インクによる独特の絵肌が特徴だ。集治さんは下絵をもとに、銅板に直接傷をつけるドライポイントや腐食液を使って彫るエッチングなど、異なる技法ごとに銅板2版とプラスチック板の計3版を制作。自分の思い描く線の強弱やにじみ、色のぼかしなどを追求し、一つの版の上にさまざまな色のインクをのせてプレス機で印刷する。 「凹版特有のインクの物質感、てかりや盛り上がりに強くひかれる」。油性インクを紙に深く染み込ませ、表面の色は明るく見えても、水彩絵の具とは全く違う質感を狙う。シャープな線の表現にも神経を研ぎ澄ます。「線にどう存在感を持たせるかが勝負。私の作品はカラフルなので色が特徴的とよく言われるが、自分自身は『線の作家』でありたい」と言う。 人間関係や恋愛などによる精神の不安定、もどかしさ…。30歳を超え、女性として抱える心の揺れに向き合う。受け入れ難い現実から逃げ出さず、情動を見つめ、納得するために描いた。この作品を、自分の心を表す「曼荼羅(まんだら)」とも呼ぶ。 「100パーセントの悟りじゃないけど、自分の開き直りや覚悟を表現した。私には絵しかない。もっともっとエネルギーを膨らませていこうとする気持ち」 日常の出来事をテーマにしてきた。「最もリアリティーを感じるから」だという。一昨年に発表した連作「告別式キット」は、祖父の死がきっかけだった。初めて身内の死に直面し、自分の存在の希薄さ、それに対する恐怖を感じた。 画面では、祭壇や骨つぼなどを、人間存在の軽さをイメージしながら冷めた視点で描いた。ともすれば暗く、陰気な印象を与えがちだが、「この作品を通して死を考え、生き方を模索した。この過程があったからこそ、今回の花の作品につながった」と振り返る。 京都で生まれ、育った。実家は呉服卸を営み、幼いころから身近に着物があった。作品の色使いなどに、その影響を指摘されることもある。「古代裂(ぎ)れのよう」と。「日本の色には案外、原色も多い。同じカラフルでも西洋はもっと乾いた色使い。湿度という面も含めて何かが違う」。着物の柄はあまり意識しないが、日本人であること、今の年齢の女性という視点にはこだわりたいと思う。 近年は、プラスチック板にインクで直接描画し、紙に一枚だけ刷るモノタイプや、ドローイングにも取り組む。綿密な計画に基づく銅版画に比べて自由さがあり、新たな表現の可能性を感じるという。 「観客側に立ちすぎず、あくまでも自分本位で制作しないと作品の強さは生まれない。一瞬、一瞬の自分の感性を大事にしたい」 [京都新聞 2006年7月2日掲載] |
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