The Kyoto Shimbun

(33)唐津正樹 「赤い束縛」

コミュニケーションの可能性探る日ごろの実感が脚本のベースに


映画「赤い束縛」の一場面

 夜のバッティングセンターで、空振りばかりする会社員の夫と、その後ろで応援する妻。隣りのボックスでバットを振っていた若い男が、妻の顔を見つめ、おもむろに隣に座る。そして、なれなれしいそぶりで話しかけ、そのまま夫婦の自宅までついていく。リビングに漂うぎこちない空気…。

 男に対し、距離を取ろうとする夫と、興味を持つ妻。真意の図りしれない男の行動に、やがて夫は若年性痴呆(ちほう)症を発病、3人をつなぐ赤い糸は複雑にもつれていく。映画「赤い束縛」は、3人の価値観がぶつかり合うことで夫婦の平穏な生活が徐々に崩れていく姿を描く。

 唐津正樹さん(26)が監督・脚本を手掛けた初の長編作品。自身が所属する京都の映像制作団体「町家プロダクション」のスタッフと製作した。出演者を募り、京都市内の喫茶店や公園で2004年12月からロケ、翌年2月に完成した。

 大阪市の第1回映像文化振興事業「フィルムエキシビション・イン大阪」に出品したところ、審査員の黒沢清監督から演出の斬新さなどが高く評価され、妻を演じた女性は女優賞を受賞した。作品を見た外国人の映画関係者の口コミで、海外でも評判を呼び、これまでドイツとイギリスの3映画祭の招待作品にもなった。ドイツには自ら出向き、観客と質疑応答をした。

 映画のテーマは「コミュニケーション」。現代社会は価値観が多様化し、世代間どころか、若者間でも5歳年齢が違えば考え方や習慣が理解できない傾向がある。そんな日ごろの実感が脚本のベースになった。

 「理性に価値を置く夫と、自分の欲求に忠実な妻、そして衝動のおもむくままに行動する男を同じ空間に置いた時、どの主張が勝つのか、コミュニケーションの可能性はあるのか。そういう問題を観た人に考えさせる作品にしたかった」

 唐津さんの脚本の書き方は独特だ。ストーリーを後に回し、登場人物や舞台設定といった「構造」を先に考えるという。テーマに必要な登場人物の性格を書き出し、その人物の生活環境や社会的な立場を決め、舞台を設定する。それらを組み合せていくつかシーンを作り出し、最後に「人物にしゃべらせる」ことで脚本が完成する。

 創作ノートには筋書きを書かない。代わりに、登場人物の関係やそれぞれの感情の起伏などを矢印や数字で記した相関図を何枚も書く。

 映像に興味を持ったのは高校生の時。スタンリー・キューブリック監督の映画「フルメタル・ジャケット」に衝撃を受けた。卒業後、大阪電気通信大に入学。映画研究会に入り、自主映画を撮り始めた。

 最初は、衝動に任せて写したいものを撮っていた。しかし、2000年から3年間、京都国際学生映画祭にスタッフとして参加し、同映画祭の記録映画を撮ろうとした体験が、映画作りの方法を変えた。

 「衝動に任せて撮っているうちに、何を撮っていいか分からなくなったんです。10分、20分の短い映画なら衝動だけでも撮れるが、それ以上は脚本と構成が必要と気づかされた」

 映画の作り方をより深く学ぼうと、情報工学科からメディア情報文化学科に移り、映画監督の大森一樹氏の研究室へ。プロの現場にも立ち会い、カメラワークや演出を学んだ。

 卒業後、京都のインターネットの映像配信会社に就職。04年にフリーになり、今はDVDやインターネットの映像を製作している。

 「今後もコミュニケーションをテーマに作品を作りたい。今、興味があるのは、環境による個人の変化。映像を通して人間のさまざまな側面を描いていきたい」

[京都新聞 2006年7月9日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

唐津正樹(からつ・まさき)
映像作家。1979年京都市生まれ。大阪電気通信大卒業後、京都の映像制作団体「町家プロダクション」に加わる。これまで短編「座子寝」などを含め計10本を製作している。京都市左京区在住。「赤い束縛」は24日から30日まで大阪市北区の「PLANET studyo+1」で上映。映画の公式ホームページはhttp://www.sokubaku.jp

「物語はストーリーよりも構造を先に考える。理系的かも」と話す唐津さん(京都市上京区・町家プロダクション)

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