The Kyoto Shimbun

(36)梅林克 「H−HOUSE」

「未完」の箱が生み出す豊かさ住み方に応じ 自ら形作る住宅


白壁が印象的な「H−HOUSE」(京都府精華町)

 古い民家が並ぶ集落の一角で、2階建ての白い箱形コンクリート建築が存在感を放っている。通りからは広い壁面が目立つ。よく見ると、壁の所々が大きくスリット状に凹(へこ)んでいる。内部はどうなっているのだろう。好奇心をかき立てられる。

 建築家梅林克さん(42)が手がけた住宅「H−HOUSE」(京都府精華町。2000年竣工)。LDKのように部屋を区切ったり、用途を固定したりしない「未完成さ」が、暮らしの豊かさを生む−。そんな発想で設計した最初期の住宅だ。

 内部は、全体がひと部屋の「ワンボックス」形式。外壁の凹み部分は、採光の役割を果たしつつ、室内をゆるやかに区切っている。ドアで仕切っていないので、適度な距離感を持ちつつ、別の領域でお茶を飲んだり、話をしたりする家族の気配を感じることができる。「外に閉じ、内に開く」構造だ。

 住宅を中心に手がける気鋭の建築家として知られる。東京・西麻布の狭小地に建てた住宅兼アトリエ「AURA」(1996年)では、都心の便利な暮らしを、ホテル住まいのような「シェルター」ととらえた。ほんのりと光を通すガラス素材の膜の屋根と、曲線を描く堅牢(けんろう)なコンクリート壁の大胆な設計が、都心での戸建て住宅の新しいあり方として絶賛され、海外でも反響を呼んだ。

 「ただ『AURA』のように一戸一戸、施主と話し合って設計し、いろいろな素材を試せるのは珍しいケース。そんなにできるもんじゃない」。かといって、メーカーのようにパッケージ化(工業化)された画一的な住宅を作る気は毛頭ない。今、目指しているのは「『商品』でも『作品』でもない、ある程度一般化した、豊かさを感じさせる住宅」だ。

 パッケージ化された住宅は、空調が効くとか、燃えにくいとか、何LDKかとか、数値的なものは向上する。「でもそれって豊かさじゃない。住というのは基本的に土についているものだから、土地や人の暮らしから動かしがたい。パッケージ化は商品としては完結しても、土地に関係なしに建ててしまう」。

 住の豊かさは、ある意味、未完の状態にこそ求められる、というのが今の結論だ。住宅のどこをどう使うかは、住み手に委ねられる。その意味で、建物だけでは暮らしは完成していないが、逆にそうだからこそ、住み方に応じた豊かさを生み出すことができる。

 「どんな暮らしをし、インテリアは何を選び、といったことを通じて、最終的に住み手が自分で住まいを形作ることになる。建物は、ライフステージによって家族構成などが変わっても対応できる箱でいい」

 叔母が営むブランド雑貨店の住提案手法がヒントになり、99年に住宅プロデュース会社「F.O.B HOMES」を設立。それまでの設計の蓄積をもとに、住宅の基本的な平面パターンを作り、それをたたき台に、施主と細部を詰める手法を考案した。パターンのなかには、凸凹がない箱形で、内部の領域をより流動的に使えるものや、中庭のようなオープンなリビングを作って上からの採光を大胆に採り入れるものもある。設立6年で約50棟を手がけた。

 第一次産業が身近にある暮らしこそ、今後求められる生活スタイルではないか、との思いが強まっている。「ロシアやフィンランドでは当たり前だけど、セカンドハウスでちょこっと畑仕事ができたり、近くの海で採れた魚を食べたりできる。そういうのがリッチ、という感覚が広がるのではないか」。

 時代の先端を行くかに見える東京では、メディア受けするデザインで、建築家がチキンレースを繰り広げているように見える。「流行から一歩置いた京都からこそ、住から見た本当の豊かさを発信したい」。

[京都新聞 2006年7月30日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

梅林克(うめばやし・かつ)
建築家。1963年京都府生まれ。大阪芸術大を卒業後、高松伸建築設計事務所勤務。94年、宇治市内に建築設計事務所「F.O.B ASSOCIATION」設立。「AURA」で97年度住宅建築賞受賞。「城崎BEER FACTORY」(兵庫県)で99年度通産省グッドデザイン賞受賞。2004年、ドイツ建築博物館のアフターポストモダニズム50アーキテクツセレクションの1人に選ばれた。立命館大非常勤講師。宇治市在住。

「息するみたいに設計しろと言った高松伸さんの教えが原点」と話す梅林さん(宇治市・「F.O.B ASSOCIATION」)

記事一覧

Copyright(C) 1996〜2006 The Kyoto Shimbun Co.,Ltd.