The Kyoto Shimbun

(38)西邑由記子 「Edison,s 1910 Frankenstein」

映像世界に溶け込む「西邑節」弦楽四重奏曲 激しく、優しく


「Edison,s 1910 Frankenstein」の初演の練習風景(米国ペンシルベニア州、2005年)

 人造人間が生まれる。鏡の中にたたずむ自分の醜さに恐怖する。約1世紀前の白黒の無声映画に、音楽が寄り添う。生命の誕生への期待、異形の者への恐れ、怒り、悲しみ…。登場人物の心模様を裏打ちするように、激しく、優しく、緩急自在にリズムを変えて、映像世界に溶け込んでいく。

 エジソンが手掛けた米国初期の映画「フランケンシュタイン」(1910年)。西邑由記子さんは、米国ゲティスバーグ大マッセルン図書館の委嘱を受け、弦楽四重奏曲を提供した。

 「映画音楽より、付随音楽という考え方で書きました。映画と独立した一つの曲としても、楽しんでほしいので」

 映像に音楽を付すのは初めてという。だが「私はまずタイトルなどフレームを決め、映像を思い浮かべて作曲するタイプ。映画や演劇の音楽に向いているようです」

 作曲家・編曲家として国内外、分野にこだわらず活躍する。オーケストラや中国伝統楽器の古筝(こそう)や二胡(にこ)のほか、尺八の曲を書いたこともある。京都では同じ堀川高出身のマリンバ奏者通崎睦美さんと仕事をしている。

 「音楽仲間が波長の合う方ばかりで、恵まれています。お互いが分かり合った上で、新しい音楽を作ろうって」

 ジャズっぽく。ラテンアメリカ系のクールさで。その自らのスタイルを「西邑節」と表現する。癒やし系で童顔の作曲家には似合わない、何ともこぶしの効いたことを言う。「西邑流」とか「西邑調」の方が、それっぽいのに。

 「『節』は、単にフレーズという意味ですが…」。ちょっと聞いてみませんか、と西邑さんは約10年前にニューヨークで書いた「ブライト・ムーン」のCDを手に取った。明るい月が雲にかげり、姿を現しては、24時間眠らない街を照らす。実り多き留学の終わりを間近に控え、感傷的な自分の瞳に映る月を譜面に落とした、自身思い入れが強い作品である。

 冒頭から駆け足に音が迫る。東京佼成(こうせい)ウインドオーケストラの重層な演奏は、ハリウッド・アクション大作の最高潮を流れる背景音楽のようだ。

 「出だしで誰が書いたか分かる、自分色の音を出したい。それは、こぶしを効かせるのと同じ。でも『こぶし』と言っても演歌は書けないかな」

 冗談を交え、笑いながら話す西邑さんが持つ空気のままに音が漂い、弾む。人柄は曲に反映するのだろうか? 明るく、軽やかで、そして−。

 「うん。かっこいい」

 ジャン、と勇壮に曲が終わった瞬間、思わず口について出た。いや私ではなく、西邑さんから。

 「提供したら曲は一人歩きします。自分の作品を聴くのが恥ずかしいという人もいるけど、私は客観的に聴けますよ」。そう言いつつ、エヘヘと照れた。

 音楽家としての挫折が作曲家の一歩目を与えた。5歳からピアノを習い、堀川高ピアノ科を目指したが断念を促され、同高作曲科へ。大学進学後、吹奏楽の重鎮アルフレッド・リード博士に認められ、渡米。国際吹奏楽作曲コンクール(イタリア)で入選する。いま米国で譜面が出版される数少ない日本人である。

 西邑さんの手掛ける曲は演奏家には優しくない、とか。「音が多くて大変ってよくしかられるけど、若いうちは若々しい作品を書きたいです」

 昨秋、西邑さんが「フランケンシュタイン」に付けた弦楽四重奏曲が米国で初演され、「夢がかなった」とあいさつした。「映画音楽は、映像とともに何度でもかけられる。エンターテインメント的な作風と合うと思うし」。だから、また手掛けたい。

 10月に京都で開かれるリサイタルでは、自ら4年ぶりのピアノを奏でる。「昔の作曲家って自作自演だったでしょう。それを目指したくて」。もう一度聴きたくなる、そう感じさせる曲を生み出したいと願う。

[京都新聞 2006年8月13日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

西邑由記子(にしむら・ゆきこ)
作曲家。1967年京都市生まれ。東京芸術大音楽学部卒。フロリダ州マイアミ大大学院とニューヨーク州マンハッタン音楽院の修士課程で学ぶ。96年、京都での自作自演による作品個展「西邑由記子ライブ―西邑由記子作曲集」が評価され、青山音楽賞受賞。作曲、編曲作品多数。10月に府民ホール・アルティでリサイタル。問い合わせは京都音協 TEL075(211)0261。

「京都は新しいものを生みだそうという空気があるのがいい。ちょっと暑いのだけは、大変ですけど」と話す西邑さん(京都市西京区の自宅)

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