The Kyoto Shimbun

(43)松本邦雄 「アメリカ」

目前で役者が演じる力強さ陳腐な会話で笑う ナショナリズム


「アメリカ」の一場面(京都市左京区・アトリエ劇研)

 黒い壁と床に囲まれた舞台の真ん中に、ソファと小さな赤い丸テーブルが置かれている。床には雑誌や漫画が散らばる。

 ニューヨークのアパートの一室。ソファにだらしなく座るエイサクとトシノブは留学生だが、学校にはほとんど通っていない。自堕落な生活。セックスのことしか頭にない下卑な会話。そこに、韓国人のパクが訪ねてきたことで、緊張が走る。

 「ニッポン人はアジア人じゃねえ。白人だ!」。勝手な論理でパクを排除しようとするエイサク。日本人と韓国人の不毛な言い争い、互いに偏見に満ちた激しいののしり合いがひたすら続く。

 松本邦雄さん(39)作・演出の「アメリカ」は、今年2月、大阪の小劇場で初演され、差別的で暴力的なせりふの応酬が賛否両論を巻き起こした。脚本は演劇雑誌「テアトロ」の新人戯曲賞を受賞、早くも9月中旬、京都市左京区のアトリエ劇研で再演された。

 「言葉に一切オブラートをかけず、無神経なせりふをあからさまに書いた。登場人物が言っていることは酔っぱらいのたわごとと同じ。あえて陳腐なレベルの会話で、薄っぺらいナショナリズムを笑えればと思った」

 物語の初めは、きまじめなパクに対し、日本人たちがあまりに勝手に見える。だが、話が進み、パクがある宗教団体の信者だと分かると、彼も必ずしも「善」ではなくなる。登場人物の誰にも感情移入できなくなり、居心地の悪い思いを抱えたまま、幕は下りる。

 荒っぽい芝居に見えて、実は非常に技巧的だ。「暴力的な話と思われがちだが、最後のシーン以外、暴力は一切使っていないし、差別用語も一語を除いて使っていない」。エイサクがパクを論破する場面は「せりふになっていない、ただの演説」というが、戯曲賞の審査員には「息だけのようなせりふが、たたきつけるような怒りを感じさせる」と評価された。

 創作活動のスタートは映像だ。同志社大在学中にショートフィルム作品を作り、全国学生映画祭などで入賞。卒業後は朝日放送に入社、ラジオ番組のディレクターとして8年間勤めたが、「やはり映画を作りたい」と退社。専門学校で脚本や映像制作を学び直し、テレビドラマのプロットなどを書きながら、ショートフィルムを作った。演劇を見始めたのも、小劇場界から面白い俳優を引き抜こうとのねらいからだった。

 2004年、初めて書いた戯曲がテアトロの佳作に選ばれた。自らの演出で初演した後、複数の劇団が上演したいと名乗りを上げた。以来、演劇を中心に活動している。

 「映画では、場所や時系列をバラバラにして語るのが好きだった」が、演劇は一幕ものが書きやすいという。映画作りは今も続けているが、「目の前で役者が演じる演劇には、やはり強烈な力がある。『朝鮮人』という言葉がこんなに強く聞こえるのは、舞台ならでは。カメラを通すと、この力はなくなるんじゃないかな」

 「アメリカ」では、自分の思いと全く逆の立場に立つ人々をあえて描いたが、観客からは「作家の言いたいことを直接的に表現しすぎ」との感想も多く、「ストレートのふりで魔球を投げたのに、ストレートにしか見られなかった」。だから、犯罪のひどさと刑罰の重さの落差をテーマにした次回作「少年Aの更正」は、自分が言いたいことをそのまま打ち出すつもりだ。

 振り返れば、小学生のころから、本やマンガ、映画の話をするのが大好きだった。「しかも、面白くない部分を自分で勝手に作り替えて話していたんですよ。今やっていることも、その延長なのかもしれないですね」

[京都新聞 2006年9月24日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

松本邦雄(まつもと・くにお)
劇作家。1967年大阪府生まれ。同志社大卒。2000年、短編映画「偶々」がいずみさの映画祭準グランプリ。「→」(02年)は国内外の映画祭で上映。04年3月、初の戯曲「サミュエル」で第15回テアトロ新人戯曲賞佳作となり、作・演出を始める。06年3月、「探偵、沈む男」が第1回日本文学館シナリオ大賞優秀賞。大阪府在住。

「野田秀樹の美しい詩のようなせりふが好き。自分では絶対書けないので、逆にストレートな言葉で勝負してみた」と話す松本さん(京都市中京区・京都新聞社)

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