The Kyoto Shimbun

(44)伍芳 「JASMINE FLOWER」

中国古箏に和洋を生かし心で聞いた音に 少しでも近づく


新作アルバムの収録曲を披露したデビュー10周年記念コンサート(9月24日、京都市北区・立命館大)

 二十一弦ある中国古箏(こそう)の奏でる音色と、ギターとピアノの弾けるようなリズムが共鳴し合い、心の底で気持ちよく響きわたる。中国の古き伝統を基本にしつつ、和洋の長所も生かした音楽の世界だ。

 立命館大出身の中国古箏演奏家伍芳(ウーファン)さんは、このほど母校でデビュー10周年記念コンサートを開き、新作アルバム「JASMINE FLOWER(ジャスミンフラワー)〜中国歌物語〜」の収録曲を次々と披露した。聴衆は中国の風景や物語を思い浮かべながら、その独特の音楽に引き込まれた。

 伍芳さんは「自分の耳に聞こえてくる音と、自分の心で聞いている音とは、実はずいぶん違う。伝えたいのは、あくまで私の心で聞いた音。表現するのは難しいけど、少しでも近づきたい。挑戦の連続」と語る。

 古箏に初めて触れたのは9歳の時。箏の先生から「自分の指で弾いてごらん」と言われ、指が弦に触れた瞬間、心が洗われ、鳥肌が立つような感覚に見舞われた。「自分自身に流れていた音楽DNAが呼び覚まされた。聞きなれていた音だったのに、初めて聞いたようでした」。以来、心で感じた、あの音が忘れられないという。

 9作目となる新作アルバムでは、幼少期から現在に至るまで、自身が親しんできた作品の中から12曲を選び、古箏でカバーした。原曲のイメージをこわさない範囲でアレンジも加えている。前作「冬牡丹(ぼたん)」では、オリジナルを中心としていたが、今回は、伍芳さんの「音の原風景」とも言える内容になった。

 伍芳さんは「過去に触れた音楽体験を元に、時には和風、ある時は洋風に仕上げた。でも、根底にあるのは、やはり中国の音楽。新作では、よく知られた曲をどう自分なりに解釈し、自分のものとして伝えていくかが重要なテーマだった。音楽家としての力がかなり試された」と振り返る。

 アルバム中の第1曲「茉莉花(モーリーホア)」は、香り高いジャスミンの花を恋人に見立てている。ラブソングで、恋人の美しさを称賛し、永遠に幸せが続くように祈っている。「古くから伝わる民謡だが、もともとはポップ。軽妙なタッチで明るく仕上げました」

 第2曲「又見炊烟(ヨウジェンチョエイェン)〜里の秋〜」は、太平洋戦争が始まった1941年に斉藤信夫が作詞、海沼實が作曲した。出征する父の武運を祈る場面も含まれていたが、テレサ・テンやフェイ・オンがカバーし、中国でも人気を博した。「中国では明るい曲だけど、日本ではしっとりした曲。同じルーツとは思えない」

 第3曲「南泥湾(ナンニーワン)」は、不毛の地だった南泥湾を開拓し、実り豊かな大地に変えた人々の勇気と努力がたたえられている。「中国人なら、だれでも知っている。民族色が強かったが、現代風に改めた」。このほか、テレサ・テンさんが歌っていた「君心我心(ジンシンウォーシン)」や「夜来香(イェライシャン)」「芳草無情(ファンツァオウーチン)」、チベット出身の歌手が歌っていた曲なども収めている。

 日中両国で親しまれる歌曲に磨きをかけ、まさに「伍芳ワールド」を作り上げた。聞いたことがある旋律だが、どこか主張を感じる。「音楽は海を渡り、国境を越える。時には勝手に飛んで行ってしまう。そんな無限の可能性を秘めている」

 初来日したのは16歳の時。京都大に留学していた姉を訪ね、京都で1カ月間過ごした。「箏を通して、いろんな人たちと交流した。その感動が忘れられず、勢い余って日本に来た」。立命館大に留学してから、さまざまな音楽家と出会い、自身の音を作ってきた。「根っこは中国。でも、最近、少し日本が交じってきたのかも」と笑う。

[京都新聞 2006年10月1日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

伍芳(ウー・ファン)
中国・上海生まれ。中国古箏演奏家、作曲家。9歳から中国古箏の第一人者・王昌元氏の手ほどきを受ける。中国で最難関と言われる上海音楽学校を首席で卒業後、来日。さらに立命館大産業社会学部を卒業し、1996年9月に東芝EMIからデビュー。南こうせつ、東儀秀樹、中西俊博、西村由紀江の各氏らと共演。アルバムに「花様芳華」「心声」「万華鏡」「冬牡丹」など9作ある。神戸市在住。

自身の音楽について語る伍芳さん(京都市中京区・京都新聞社)

記事一覧

Copyright(C) 1996〜2006 The Kyoto Shimbun Co.,Ltd.