The Kyoto Shimbun

(45)中田彩葉 「のこり香」

戦後の復興期 娼婦の悲恋立ち直る強さ 社会に重ね


「のこり香」の一場面(大阪市天王寺区、シアトリカル應典院)

 「うわーん」

 スポットライトを浴びて、舞台のまん中で彼女は大泣きした。

 だまされていた。ホントに好きだったのに。でもそんな気もしていた。

 ラストシーンで、思いを、体全体で表した。顔をくしゃくしゃにし、肩をふるわせて。だが、大きく開いた足はしっかり、ふんばった。

 「派手にふられた後、立ち直る。そんな女性像を作りたかったのはもちろんです。それに加え、戦後の間もないころって、『前を向こう』という空気が社会全体にあったと思うんです。それも表現してみたかった」

 男に裏切られた悲しみ、くやしさにくれる女性を演じつつ、「時代」も表現した。

 劇団「犯罪友の会」が今春大阪で公演した「のこり香」。敗戦から立ち直りかけていた時代。娼婦宿を舞台に、戦争の古傷にほんろうされる人々と、娼婦の悲恋を描く。中田彩葉さん(31)は、人はいいが恋に不器用な娼婦役を演じた。「普段は下品だけど、好きな人の前ではぶりっこする娘なんですよね」

 俳優の魅力を「人を作り出せること」という。「自分自身に別の人格を取り込んでいく。そして全く違う人間を作り上げる」。リアルじゃないけど、うそじゃない。中田さんは舞台での自分をそう表現する。集団就職した紡績工場を逃げ出して、転落。だけど天真らんまんでお金持ちと結婚したい−。本作でも、劇中にはない裏設定にまで思いをはせ、役作りをした。

 時には、近所の青年に淡い恋心を持つ女子高生。時には十手持ち、時には裏家業を持つ車夫。「いろんな人間を作り出せるのが楽しいですよね」。だが「いろんな人間」という割には、三枚目の役ばかりに偏っている気もするが…。「うちの座長は、わたしの特徴とかよく見ているようです。確かに二枚目の役を打診されても困るかなあ」

 「看板女優」である。劇団のホームページは中田さんを、そう紹介している。

 古株なだけです、と愛嬌ある笑顔に朱が差した。「本当は3、4年で辞めるつもりだったんですけど」

 野外劇を作り出す様子をテレビのドキュメンタリーで見たことが、劇団入りのきっかけだった。「芝居を専門に勉強したり、経験していたわけじゃない。若いうちは何でも経験ですから。アクターと裏方を両方やりたかったんです」

 小さな声では客席に届かず、何度ものどをつぶした。昼の舞台設営のあと、夜のけいこ。公演前後はほとんど自分の時間はない。公演中に雨が降れば、ぬれねずみ。舞台は生モノだから失敗も当然ある。公演があるたびに、疲労に覆われた心に後悔と反省が降り積もる。「辞めよう。毎回思うんです」。実際、中田さん以外の同期4人はみな退団した。

 だけど…、と中田さんは言う。公演終了し、丸太で組んだ野外の舞台装置を片付ける。更地になり、すべてが終わったという爽快(そうかい)感は、何物にも代え難い。「そして次の話を聞いて見ると、おもしろそうだな、と」。いつまで続けましょうか、そう人ごとのように話してニカッと笑った。

 野外劇指向だが、室内劇にも魅力があるという。「お客さんとの距離が近く、細かい芝居も見てもらえ、反応も感じ取りやすい」。「のこり香」では股(また)の開き方を変えたりしながら、品はないけど、はじらいもある女の子を表現した。

 19日から野外劇の新作「かしげ傘」を大阪で公演する。「これから会場近くでキャンプに泊まり込みです。路上生活者のようでしょう。また汚くなっちゃう」。せりふと裏腹に声が弾んだ。

[京都新聞 2006年10月8日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

中田彩葉(なかた・あやは)
1975年京都市生まれ。京都ピアノ技術専門学校卒。96年、劇団「犯罪友の会」に入団し、同年「牡丹(ぼたん)のゆくへ」でデビュー。2003年飛田演劇賞アイドル賞受賞。同劇団の次回公演「かしげ傘」は19日から25日まで大阪市中央区、難波宮跡公園特設会場で開催。京都市中京区在住。

「決めなきゃならない時にずっこけたり。舞台はハプニングの連続。でもそれも面白い」と話す中田さん(京都市中京区・京都新聞社)

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