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(46)宮本妥子 「4人の打楽器奏者のための『四季』」

空間意識した幻想世界伝わる感性の違い 演奏ごと違う曲調


客席後方の隅(手前左)でも打楽器が演奏された「四季」。舞台の奏者(右奥)らと呼応した音響が空間を包む(大阪市北区のザ・フェニックスホール)=撮影・河崎宏介氏

「四季」の図形楽譜(部分)

 客席の前後左右から響いてくる打楽器の演奏は、リズムを取るというよりは、共演者を意識した音色が醸し出すメロディーのようだった。

 先月中旬、作曲家武満徹氏の没後10年を記念した大阪市内の演奏会。最後の演目「四季」は、4人の打楽器奏者が客席を囲い込むように室内の四隅を陣取っていた。

 4人はそれぞれ持ち寄った30種以上の楽器を、身の回りに配している。小さな楽器はつるされており、営業中の屋台にもみえる。

 奏者のひとり宮本妥子さん(36)は、通常の舞台を室内の上辺とするならば、観客の出入りする右下隅で演奏していた。

 2階席からは直接見えなかったが、皮や金属、木片などさまざまな材質がこすれたり、ぶつかったり、時に振動する音色が、共演者の演奏とからみあう。

 正面を眺めていると、一面ガラス張りの大きな窓に、彼女の動作がほのかに映っていた。窓の外は、車のヘッドライトが雨模様を照らす夜景。空間を意識した音の芸術は、視覚的にも幻想の世界に誘った。

 演奏する楽器は奏者の自由。細かなリズムや音程も個人の裁量に任されている。「合奏しているのに、演奏者一人一人の感性の違いが、こんなにはっきり観客に伝わる作品はありません。奏者にとって、メチャメチャこわい曲なんです」。

 宮本さんは3回目の演奏を振り返る。

 「四季」は1970年に初演。作曲した武満氏は、西洋音楽で用いる五線譜ではなく、「●」や「−」「◇」などの図形を並べた2色の楽譜で、奏者の指示を表した。

 楽譜は2枚。いずれも正方形の紙の中心から外側に向かって、上下左右に斜めを加えた5ないし7方向に9種類の図形が不規則な間隔で並んでいる。「私たち奏者は好きな方向を選べるし、間隔のとり方も任されている。何回演奏しても、同じ曲調になることは、まずありません」

 図形の「+」は、音程や強度などを徐々に増していく。「−」は減少だ。図形の色が青なら「ひんぱんに」「規則的に」、赤なら「突然に」「不連続に」の動作を指定している。

 「○」は語り。内容は暦や気象学などに限られており、宮本さんはドイツの留学経験を生かして、現地の新聞に掲載された天気予報を読んだ。

 矢印の図形が、曲の特色を最も示している。向いている方向に位置する奏者の模倣を意味する。「→」なら右側だ。

 演奏の途中。宮本さんは対角線上の奏者にならう「↑」に、行き当たった。しかし、相手が演奏していた低音のマリンバは、持ち合わせてなかった。ピンチでとっさに鳴らしたのが、水に浮かべたヒョウタン。「ウォータードラム」という民族楽器で、こもった柔らかな音が演奏の連続性と調和を保った。

 「絶えず三方の共演者が使う楽器や奏法を意識しながら機転を効かす。神経をすり減らす作業です。演奏経験を重ねるうちに、じっくり間を置く勇気も必要なことが分かってきました」

 打楽器奏者にとって、扱う楽器の種類は「アーティストの個性そのもの」と宮本さんはいう。

 彼女が収集に力を注いでいるのが、楽器店に売っていない小物。

 旅先で見つけたカエルの木製の置物は、背中に彫られたギザギザを木棒で均(な)らすように鳴らす。スーパーで500円で売っていた鉄製、沖縄の民芸店にあった貝殻製の風鈴は「水が光り輝くような透明感のある音色」が気に入っている。いずれも「四季」で、用いた。

 「見た目はきれいでも、良い音が出る小物は少ない。みやげ物店での“試聴”は、当分やめられそうにありません」

[京都新聞 2006年10月15日掲載]

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宮本妥子(みやもと・やすこ)
打楽器奏者。1970年静岡県生まれ。同志社女子大の音楽学科を卒業後、94年にドイツ国立フライブルク音楽大・大学院に留学。98年ライプチヒ現代音楽アンサンブルコンクール第1位。99年首席最優秀でドイツ国家演奏家資格を取得。2004年に帰国し、各地でコンサートに出演。現在、石山高音楽科非常勤講師。大津市在住。

「四季」で使った楽器を手に演奏を振り返る宮本さん(守山市内のけいこ場)

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