The Kyoto Shimbun

(48)高橋智隆 「FT」

常識覆す美しいロボット女性らしさを重視 可能性にチャレンジ


見事な「モデル立ち」でポーズを決めるFT。左はやんちゃな少年のようなクロイノ(京都市左京区・京都大)

 ツンとそらした胸。くびれた腰に、長い手足。モデルのようなシルエットが、モーター音とともにしなやかに動き出す。お尻を振るようなウオーキングと華麗なターン。まさにファッションモデルさながらだ。

 京都大を拠点に活動するロボットクリエーター高橋智隆さん(31)が今春発表した「FT」(Femail Type)。ずんぐりとした人型ロボットを見慣れた目には、「世界一美しいロボット」という自信に満ちたキャッチフレーズにも素直にうなずいてしまう。

 「女性らしさをどう表現するか。ロングヘアやスカート、大きなバストなんかで強調するのではなく、あくまでもスタイルで示したかった」

 女性の骨格や体の線を検討した結果、足はやや内またにして、腰の外側から足の付け根を伸ばした。女性特有の張り出した骨盤にこだわり、上腕部は少し後ろにカーブさせた。完全な直線でできた面はほとんどない。

 「女性らしさを意識させるには二の腕と腰、太ももの細さが重要なポイント。少し主観も混じっていますが」と笑う。

 ファッションモデルの動きを観察し、モデルからの助言も参考にして、女性的な身のこなしをプログラミング。腰をひねる「モデル立ち」や「モデルウオーク」などの動作も可能になった。

 FT制作のきっかけは、米国大手おもちゃ会社から聞かれた「バービー人形を歩かせられる?」という一言だった。重心が高く不安定な細身のボディーに、ロボットの多様な部品を詰め込められるはずもなく、即座に「無理だ」と答えた。

 「でも考えてみると、既製のロボットはどれも子どもか男性的な外見。女性的なロボットに新しい用途の可能性を感じ、チャレンジしてみた」

 女性といっても、タイプはさまざまだ。「カワイイ」よりも「カッコイイ」を意識して、色は黒白のツートンに。ピンクなどの配色は避け、シルエットを際立たせてスリムさを強調した。澄んだブルーの目、少しとがったあご、凛(りん)とした眉(まゆ)のようなラインが「クールビューティー」の雰囲気を漂わせる。

 ロボットの固定概念を覆すFTのデザインは、異分野からの注目も集める。雑誌「BRUTUS」で写真家篠山紀信さんが被写体に選び、女性誌「VOGUE」はグッチのドレスと共演させた。

 「自分でも予想もしなかった反響。ロボットに無縁だった人に、興味を持ってもらえただけでも意味がある」

 機能性が優先されるロボット開発の世界で、高橋さんは以前から外見のデザインや動作の美しさなどを重視してきた。

 「ロボットが家庭で普及するには人間の奴隷ではなく、友だちにならないと。コミュニケーションしたい相手と思うのに外見は決定的に重要」

 これまでにも斬新なデザインと技術の二足歩行ロボットを次々と発表。軽快な足どりのやんちゃ少年を思わせる「クロイノ」は2004年、米タイム誌の「最もクールな発明」に選ばれた。

 デザインの独創性に劣らず、制作スタイルもユニークだ。工房は実家の一室。寝室も兼ねるので「起きてすぐ作業にかかれる」。ロボット設計に図面は引かない。ラフなスケッチをもとに、プラスチック板を電気コンロで熱して軟らかくし、掃除機で吸って成型する「バキュームフォーム」を繰り返す。

 「パソコンで設計しても立体にするとどこか味気ない。実際に自分の手で造形するうちに心地よい形になる。人が感情移入するには、その試行錯誤が大事なんです」

 自らの作品を「サイエンスアート」と呼ぶ。先端技術の「成果」でもあるが、同時に、自らの美的感覚を込めた「表現」でもある。そんな気概が伝わってくる。

 クリエーターとしての哲学を問うと、「ロボットと暮らす未来の風景を垣間見てもらうこと」と明快な答えが返ってきた。

おわり

[京都新聞 2006年10月29日掲載]

美術、音楽、演劇、デザイン、パフォーマンスなど多様なジャンルの中から、次代を担う京滋ゆかりの表現者を選び、創作世界の広がりを紹介します。

高橋智隆(たかはし・ともたか)
1975年生まれ。大津市で育ち、立命館大産業社会学部卒。志望のメーカーへの就職に失敗し、少年時代に夢見た「ロボット博士」を目指して京都大工学部に再入学。趣味で作ったロボットが大反響を呼び、関西テクノアイデアコンテスト2001グランプリ受賞。03年「ロボ・ガレージ」を創業、京都大の学内入居ベンチャー第1号となる。ロボカップ世界大会で04年から3連覇。

「人とロボットが友だちや家族のように付き合えるデザインを追求したい」と話す高橋さん(左京区、ロボ・ガレージ)

記事一覧

Copyright(C) 1996〜2006 The Kyoto Shimbun Co.,Ltd.