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障害者作品の保存 福祉の現場、意識共有を

丹波総局 森大樹
デジタルアーカイブの手法や有用性について学ぶ福祉関係者ら(亀岡市北町・みずのき美術館)
デジタルアーカイブの手法や有用性について学ぶ福祉関係者ら(亀岡市北町・みずのき美術館)

 美術の専門教育を受けていない人たちによる「アール・ブリュット」(生の芸術)の評価が国内外で高まっている。障害者が生み出す作品はその典型で、福祉施設には作品の適切な保存・管理が求められるようになった。こうした機運の中、亀岡市北町のみずのき美術館は、知的障害者の絵画作品約1万8千点をデジタルアーカイブ化するプロジェクトを進めている。ほかの施設でも使える手法を確立できるか注視したい。

 1月末、同美術館に全国の福祉関係者ら約50人が集まった。同館が開いた学習会で、アーカイブの手法や有用性を学ぶためだ。「作品の取り扱いに悩んでいる福祉施設はかなり多いと感じた」。障害者芸術に詳しい同館の奥山理子さん(30)は振り返る。

 プロジェクトでは、1点ずつ作者や制作年月日、技法、画材などのデータを蓄積し、当時の作者の心理状況を知る手掛かりとして作品裏面にある書き込みや日誌の文章なども記録している。膨大な作品をデータベースで一元管理することで、館内の端末やホームページで公開し、アール・ブリュットの発信につなげるのが狙いだ。

 美術館を運営する亀岡市河原林町の障害者支援施設みずのきは、1964年に知的障害者のための絵画教室を始めた。当時、創作活動を取り入れる障害者施設は国内では数少なく、湖南市の知的障害児施設近江学園などとともにアール・ブリュットの先駆けとして注目を集めた。いち早く障害者の独創性や表現力に目を付け、これまでに絵画教室で制作された大半を保存してきたという。

 学習会では、福祉の分野では先駆的なアーカイブの取り組みについて専門家が事細かくノウハウを解説したが、取材を通じて、美術館と参加者たちとの間に隔たりがあるように感じた。

 「難しくてできそうにない」。ある参加者の言葉が象徴的だった。障害者施設はそもそも生活支援が本来の業務で、残念ながら障害者の作品を芸術と見なさず、破棄してしまっていることが多い。アール・ブリュットという用語が国内で定着した90年代以降も、その傾向はあまり変わらないように思う。みずのきのように長年作品を保存している施設はむしろ少数派だ。

 資金や人員などの面でも課題がある。近江学園の担当者は「将来的にデジタルアーカイブの必要性は感じるが、予算では子どもたちの生活を優先しなければという思いもある」と複雑な心境を話した。

 アーカイブの取り組みは先例となるべきだが、芸術の知識に乏しい福祉施設が置いてきぼりにならないか不安もある。奥山さんは「アール・ブリュットにとっての弊害は作品が残らないこと」と強調する。まさにその通りだと思う。いかに作品に価値を見いだし、次世代に残していくか。まずはこの意識が福祉の現場に広まってほしい。

[京都新聞 2017年4月12日掲載]

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