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取り調べの可視化 対象拡大向け議論急務

滋賀本社 堀内陽平
天井に設置された可視化の記録装置(東京都内の警視庁施設)
天井に設置された可視化の記録装置(東京都内の警視庁施設)

 密室の取調室で何があったのか。もし、自白を強要されていたとしたら−。刑事事件の取り調べ過程を記録する録音・録画(可視化)が京滋の捜査現場でも広がりつつある。不適切な取り調べによる冤罪(えんざい)を防ぐには、対象拡大に向けた議論が急務だ。

 取り調べの可視化は取調室に記録装置を設置し、やりとりの様子をDVDなどに保存する。日本では裁判員制度の開始を前に、検察が2006年、警察が08年から試行している。19年6月までに施行される改正刑事訴訟法で、裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件は全過程の可視化が義務付けられ、事件捜査は大きな転換点を迎える。

 導入を巡っては賛否が分かれる。警察や検察は「捜査に支障が出る」として慎重な立場だ。プライバシーや費用などの問題に加え、容疑者から供述を引き出しにくくなるという懸念は分かる。

 一方、弁護士らは冤罪防止につながると主張する。自白したとして起訴された被告が、裁判段階で「強引な取り調べだった」と一転無罪を訴えるとしよう。可視化した記録をチェックすれば、自白が任意かどうか供述の信用性を判断できるという訳だ。

 確かに、過去の冤罪事件では捜査当局が密室で仕立て上げた自白調書が裁判で証拠として採用され、有罪の決め手の一つとなってきた。日弁連可視化本部の小坂井久副本部長は「ありのままを検証できる可視化の下では、虚偽自白や作文調書裁判は格段に減る。供述の自由が可能な環境になったのは日本の刑事司法の大きな地殻変動」と話す。

 相次ぐ冤罪を受け、捜査当局も対策を講じてきた。検察より可視化が遅れている警察は取り調べ適正化のため、圧力や利益誘導などの行為を監督する制度を定めた。だが、その後も不適切な事例は全国で後を絶たない。

 元北海道警警視長で、「警察捜査の正体」を著した原田宏二さんは「現場では自白を取れないと評価されない。組織捜査である以上、取調官は上層部から自白という結果だけを求められる」と明かす。証拠が乏しい事件ほど自白偏重に陥りやすく、取り調べの透明性を担保するには、密室の「窓」となる可視化は有効だろう。

 ようやく全面義務化になるといっても、対象は全事件の2〜3%だ。任意や在宅での事情聴取では行われず、参考人も含まれない。対象が限られており、捜査側に都合のいい部分だけを記録されないか危惧する。

 取り調べのプロを前に、一人きりでも折れない心の強さが求められるその時、今の刑事司法は救いとなり得るか。むしろ、守るべき国民の人権を侵害してきた面はなかったか。これ以上、無実の人が裁かれることがないよう、可視化の拡大と徹底に向け議論を深めるべきだ。

[京都新聞 2017年10月25日掲載]

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