The Kyoto Shimbun
取材ノートロゴ

文化財活用 修理、研究 触れる機会も

報道部 芦田恭彦
古い檜皮を取り除いた本堂の大屋根が公開された保存修理現場(京都市東山区・清水寺)
古い檜皮を取り除いた本堂の大屋根が公開された保存修理現場(京都市東山区・清水寺)

 「文化財の活用」というフレーズを頻繁に耳にする。議論が進む文化財保護法の改正案でも、色濃く打ち出されている。ただ、増加する外国人観光客に対応するための多言語掲示の新設とか、伝統建築の空間で現代的なイベントの開催だけが活用ではない。従来から続けられている文化財の維持や研究に接する機会を増やし、意義を伝えることこそ大切ではないか。

 ヒントを得ようと、古文書などのデジタルデータの利活用を探る専門家の勉強会や、文化財の保存修理の公開現場を巡った。

 京都市左京区の京都府立京都学・歴彩館では10月、所蔵する世界の記憶(世界記憶遺産)「東寺百合文書」のデジタルデータに関する勉強会が開かれた。インターネットで公開されている百合文書の活用を探るのが目的だ。国立歴史民俗博物館や東京大史料編纂(へんさん)所などの研究者が参加。博物館や研究機関が独自に作製し、仕様が異なるデジタルアーカイブについて、公開する仕組みの共通化を図る国際的な取り組みなどが報告された。

 京都大古地震研究会の「みんなで翻刻」プロジェクトに関する報告が興味深かった。現代の防災研究に災害史料を役立てるには、くずし字を活字に変換し、読めるようにする翻刻作業が欠かせない。膨大な作業の効率化を図るため、市民ボランティアがネット上の作業に参加する試みだ。

 支援アプリを使って例題を解いたり、参加者同士で添削できたりと、学習サービスにもなっている。約300人が作業に携わり、アンケートでは「研究に貢献できた」「翻刻自体が楽しい」などの感想が寄せられ、おおむね好評という。

 出席者から「専門家のチェックがなく、学術資料として課題はある」「下地となる資料としてなら活用できる」と翻刻の精度について意見が交わされた。一方で、「自分の住む地域史への興味関心を高められる」との声もあった。生涯学習や研究補助などの視点で、百合文書を使った同様なプロジェクトも検討する価値があるのではないか。

 文化財建造物の保存修復も、生涯学習の良質な教材となる。11月の文化財保護強調週間に合わせた清水寺(東山区)の修復現場公開では、伝統的な屋根ふき体験や、石の切り出し技術などの紹介コーナーもあった。

 檜皮(ひわだ)ふき用の金づちの形状が目に留まった。一般的な金づちと違い、柄の先端の金具が突起の小さいロの字形になっている。職人が「金づちで顔をたたかないためです」と教えてくれた。作業では、屋根に敷いた檜皮を片手で押さえる。もう一方の金づちを握った手で、口に含んだ竹くぎをつまみ、次々と打ち込む。伝統技術を支える工具にも創意工夫がこもっているのだと感心した。

 本堂(国宝)の大屋根の全面ふき替えは半世紀ぶり。「清水の舞台」の上に設置された足場に立つと、複雑に組み合わされた木材があらわになった約2050平方メートルの屋根が臨める。この後、檜皮を手作業で敷き詰めていくことを想像すると、気が遠くなりそうになった。

 文化財について、連綿と続く伝統的な維持の営みや、知識の蓄積に触れる機会は、残念ながら多くはない。専門性の高さに気後れせず、楽しめる機会を増やすことも、有意義な活用法だと思う。私たちが文化財を次世代に残す橋渡し役だと実感するためにも。

[京都新聞 2017年11月8日掲載]

▼前の記事取材ノートからTOP次の記事▲

各ページの記事・写真は転用を禁じます
著作権は京都新聞社に帰属します
ネットワーク上の著作権について―新聞・通信社が発信する情報をご利用の皆様に(日本新聞協会)
電子メディアおよび関連事業における個人情報の取り扱いについて
京都新聞
京都新聞TOP