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ネット依存への警鐘 奪われる想像力と時間

滋賀本社 中塩路良平
不感地帯で暮らす田中さん夫妻。携帯を使えないからこそ会話が弾む(大津市大石富川2丁目)
不感地帯で暮らす田中さん夫妻。携帯を使えないからこそ会話が弾む(大津市大石富川2丁目)

 進化する情報通信技術と私たちは、どう付き合うべきなのか―。

 新年の連載記事「RE:あなたへ届けるカタチの未来」で、携帯電話の電波が届きにくい不感地帯を取材して、浮かんだ疑問だ。インターネット端末のスマホが普及し、利便性が飛躍的に高まった現代社会。一方でネットに安易に答えを求め、依存に陥る弊害も出ている。不感地帯の住民の声は、情報ツールとの距離感に対する警鐘に思えた。

 「今は何でもスマートフォンで検索。自分の頭で考えない人が増えた気がする」。不感地帯の一つ、大津市大石富川2丁目で暮らす田中久雄さん(38)、夏子さん(32)夫妻の言葉が、耳に痛かった。記者自身も気になる情報があれば、ついスマホで検索。深夜にネットを閲覧し、時間を浪費することもしばしば。立派なスマホ依存だろう。

 家族や恋人と一緒にいても個別にネットやゲームに興じる人も多い。田中さん夫妻は毎日の食事を「おいしいね」と語り合い、会話が途切れることはない。電波が届かないから「目の前の幸せを実感できる」と夏子さんは言う。

 スマホ依存は、生活を壊しかねない。大阪市立大病院の医師片上素久さん(42)はネットゲームに依存する中高生らの治療を担う。京都や滋賀を含め、現在の患者は100人以上。昼夜逆転の生活になって引きこもり、ゲームを取り上げようとした親に暴力を振るう事例もある。

 多くが熱中するのは、ネット上の仲間と「会話」して進めるオンラインゲームだ。受験や進学校での挫折など、勉強の悩みなどが背景にある。「ゲームは簡単に成果が出すことができ、仲間から褒められる。現実が面倒になり、自分の価値をスマホの中に求めてしまう」と分析する。

 「いいね」がSNS(会員制交流サイト)で氾濫する一方、対面で相手を褒めることが減ったと片上医師は感じている。「承認欲求を満たすためには、ネットをするしかない社会になってしまうのではないか」と危惧(きぐ)する。

 あえて携帯電話を持たない人にも出会った。立命館大の崎山政毅教授(56)。常に連絡が付くことでプライベートな時間が侵されるし、過度にネットに接続する機会をつくりたくなかったという。

 携帯電話やパソコンの登場は「人間をわがままにした」と評する。面識のない若手研究者が深夜に論文をメールで送ってきて、翌朝早く「読みましたか」と催促したことも。ネットで常につながるゆえに、「相手への想像力が欠けるのでは」と考えている。

 スマホは急速に普及し、20、30代の個人保有率は90%を超える。もはや、携帯やネットのない過去に戻ることは難しい。だが、立ち止まって考えることはできる。スマホに頼りすぎていないか、感性が奪われてはいないか、と。

[京都新聞 2018年1月17日掲載]

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