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着物産業のこれから 商慣行改め市場活性化を

報道部 今口規子
古い町家の自宅兼工房で作業する絣(かすり)職人の葛西郁子さん。和装の未来を担う一人だ(京都市上京区)
古い町家の自宅兼工房で作業する絣(かすり)職人の葛西郁子さん。和装の未来を担う一人だ(京都市上京区)

 4月18日から5回にわたり1面や経済面で連載した「和を紡ぐ 着物産業の今、未来」は、和装産業が直面する課題を取り上げた。京都を代表する産業の和装は、市場縮小でかつての隆盛は見られない。職人の後継者不足などによる産地の疲弊も深刻だ。だが、取材を通じ、業界が進めつつある商慣行の改善や、若手和装関係者の活躍に、新たな可能性も感じた。

 和装産業が低迷した大きな要因は、戦後の洋装化で需要が減少する中、販売額を維持するために供給側がフォーマル中心の高級品にシフトした結果、買い手が限定されたことにあるとされる。平成の初めまでは購入単価が上昇したが、バブル経済崩壊後、そのビジネスモデルは立ちゆかなくなった。伝統技術を継承する職人の高齢化と廃業も、大きな課題になっている。

 経済産業省の和装振興協議会は昨年5月、産業の持続可能性が懸念されるとして、発注側が一方的に代金を減額する「歩引き」や長期手形などの前近代的な取引慣行や、消費者に価格を誤認させる「値引販売」などの不透明な販売手法といった商慣行の改善を強く促す方針を出した。

 消費者が着物に関心を失ったわけではない。京都の街中には、着物姿の若者や外国人観光客があふれている。小学校や大学の卒業式でのはかま、成人式での晴れ着に多くの人が心を躍らせる。祇園祭での若者の浴衣姿もなじみ深い。多様で新しい客層が増えているのに、以前のビジネスモデルや商慣行にとらわれたままで、追い風をうまくつかめていないのだ。実際、カジュアルでファッション性の高い着物や、こだわりの高級オーダーメードを手掛ける新たな和装関係者も現れ、顧客を増やしている。

 和装振興協議会が求めるサプライチェーン(商品の仕入れ・供給網)全体の適正な取引の確保や、消費者本位の商品・サービスは、新しい市場を開拓するチャンスにもなるはずだ。適正な取引が行われることによって、産地に資金が早く入れば、消費者が好む新作の創出に結びつく。無理な高額商品の販売や不当な価格表示が排除されれば、消費者の安心感も高まる。一部の事業者で見られる商法だが、展示会でしつこく購入を勧められて困惑した経験を持つ消費者は私も含めて多いはずだ。さまざまな困難はあるとしても、商慣行の改善は、新しい着物ファンを生み出し、市場を活性化させることにつながるだろう。

 素晴らしい職人の仕事を適正な価格で提供している呉服店、伝統技術を生涯かけて習得しようとする若手職人、多くの人に着物を広げようとする問屋。連載で和装に携わる多くの人と知り合った。担い手のまっとうな努力と、着物に関心のある消費者が出合ってほしい。そこに着物産業の未来があると思う。

[京都新聞 2018年6月20日掲載]

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