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盆の月

 追い立てられるように切り上げた人もいれば、思わぬ足止めでのんびりした人もいよう。台風直撃に翻弄(ほんろう)された今年のお盆である▼往復の混雑はうんざりだが、それぞれに携えた故郷の香りに少しほっこりするのは帰省時期ならではだ。渋滞した車列でも、先の遠い東北県の車に「ご苦労さま」と思い、猛暑で有名な「熊谷」ナンバーに親しみを感じもする▼お盆と正月を中心とする帰省は、毎年ほぼ4人に1人が動く国民的行事といえる。ソニー損害保険のネット調査によると、今夏の帰省の平均所要時間は片道2・2時間とか。離れた家族や友人との再会だけでなく、全国各地の人々が一斉に交ざり合う▼台風が邪魔したのがもう一つ、「盆の月」である。元々、お盆は立秋から最初の満月の日だったといわれ、新暦で合わなくなったが、今年はちょうど15日に満月が見られるはずだった▼<故里を発(た)つ汽車に在り盆の月>(竹下しづの女)。昨晩の五山送り火にも似て、盆の夜を照らす月の明かりは亡き人への思い、そして郷愁を胸に染み入らせる▼これから出発する人もいるだろう。同じネット調査では、長距離運転で怖いのは「高速道路の逆走」「あおり運転」が半数超に上った。時々休憩して欠けゆく盆の月を仰ぎ見て、大切な思い出を持ち帰りたい。

[京都新聞 2019年08月17日掲載]

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