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観音ハウス

 随筆家の故白洲正子さんが滋賀県北部の観音像を拝観した体験を「近江山河抄」に書き残している▼厨子(ずし)が開帳されると横にいた村人の一人が声を上げた。「誰がお持たせしたのか」。見ると観音様が水晶の数珠を手にしている。白洲さんは村の誰かが寄進したのだろうと思い巡らし<信仰が篤い証拠>と合点する▼白洲さんが愛した湖北の観音様が、遠く離れた東京で今、人気を集めている。130を超える観音像が現在でも残る長浜市が上野に設けている展示施設「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」である▼市内に根付く観音信仰の文化を発信しようと2016年に開いた。観音像1体を2~3カ月ごとに入れ替えて無料で展示する。これまでに3万3千人が来場した▼観音とは「あまねく見る自在者」を意味するそうだ。衆生を救済するために自在に姿を変える。特に渡岸寺(同市高月町)の国宝で名高い十一面観音は、民衆のあらゆる願いに応じるためさまざまな方向に顔を配しているのだという▼観音像の多くが造られた平安時代、人々は現世の苦難を和らげるため仏様に救いを求めた。それから1200年、今も観音像が残るのは地元で信仰が受け継がれている証左だろう。仏に寄せる湖北の人々の思いが展示であまねく伝わればこの上ない。

[京都新聞 2018年10月15日掲載]

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