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[21]シミュレーションで社会設計の指針

立命館大情報理工学部准教授 服部宏充氏
2007年の社会実験時の一般車両による交通流を再現

 私たちが住み暮らす日本の社会は、情報化が進むとともに、交通や物流などのさまざまなサービスが組み込まれ、高度化・効率化が進んでいます。その結果、社会の構造や仕組みは人間には把握しきれないほどに複雑化しています。いま、高齢化や人口減少の本格化を前にして、従来のように効率一辺倒ではなく、人々が安心感や満足感が得られるように、社会を支えるシステムや制度を再設計することが重要な課題となっています。

 われわれが迎える少子高齢化社会は、これまでにない状況ですから、社会をどのように作り直すべきかについて、過去のデータから答えを導き出すことは難しいでしょう。そこで、未知の社会を予測するためのシミュレーションの技術が重要になります。

 シミュレーションは、現実の空間で観測される現象を、コンピューターの仮想空間上で計算するための技術です。たとえば、東日本大震災の後、被災地を襲った津波の再現シミュレーションは具体的な利用例のひとつです。しかし、人間の社会で起こる現象、たとえば多くの観光客で混雑する駅や観光地における人の群れを再現する場合には、それとは異なるシミュレーション技術が必要です。津波を構成する水に意思はありませんが、人波を構成する人間は、それぞれに異なる意思や目的を持つ独立した存在です。そこで、人間ひとりひとりを“エージェント”と呼ぶソフトウエアとして個々に模倣し、エージェントの集合、すなわち“マルチエージェント”によって、人間の集団を模倣するマルチエージェントシミュレーションの技術(以下、MASと略します)が研究されてきています。

 MASの一例として、ロボカップと呼ばれるコンペティションでのサッカーのシミュレーションがあります。個々のプレーヤーを模倣するエージェント11体が、お互いに連携・協力し、チームスポーツであるサッカーを模倣しています。シミュレーションによって、優れたチームワークを生み出す方法を吟味し、ゲームに勝つための方策を練ることができます。

都市交通施策も検証可能に

 私は、都市の自動車交通をMASで再現し、利用する研究を行っています。自動車交通は社会にとって不可欠なシステムであり、人や物の流れをスムーズにするために適切な制御が求められます。とはいえ、自動車交通は、多様かつ多量の車両が入り交じる集団現象ですから、道路環境の整備や、交通のルールの制定といった施策の実施が、どのような影響を与えるのか、予測するのは簡単ではありません。MASによって多数の車両による自動車交通を生成し、交通施策の検証を可能にすることが、研究の目的のひとつです。

 京都市では、四条通の歩道拡幅の影響を調査するため、2007年に交通社会実験を行いました。四条通の一般車両通行禁止やその周辺道路の歩行者専用道路化などを伴う社会実験の実施は大変だったと思います。MASによる交通シミュレーションは、仮想の社会実験を可能にします。図は、2007年の社会実験時の一般車両による交通流を再現したものです。社会実験時には、普段は見られない、う回路を走る車の流れが観察できます。

 さまざまな自動車交通を生成するMASの研究を進めていけば、たとえば自動運転車のようなこれまでにない車両を効果的に利用しながら、歩行者の安全や安心を追求する京都市内の交通環境をデザインする助けになることが期待できます。

はっとり・ひろみつ

 1975年生まれ。名古屋工業大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。マルチエージェントシステム、社会シミュレーションの研究に従事。米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、京都大学助教を経て、2014年より現職。

【2018年12月26日掲載】