日本人の忘れもの 知恵会議  ~未来を拓く京都の集い~

人としての基本的な 考え方を見つめ直す

大倉治彦
月桂冠株式会社 取締役社長
大倉治彦

歴史や人の考え方は必ずしも進歩するばかりとは限らないといわれます。古典が後生に読み継がれ、いつまでも大切に教訓とされ続けていることがそのことを裏付けています。先人たちの教えの中からは、時代を超えて変わらない基本的な価値観を見いだすことができるからです。
京都の経営者と日頃お付き合いをする中で感じることは、物事を非常に長い目で見る習慣があるということです。短期的な利益を得るよりも、むしろ謙虚な態度で堅実にやっていくということが身についています。事業を次代へ継承するにあたっては、仕事内容の詳細よりもむしろ、背中を見ながら学べと言われるような暗黙知を大切にしています。長く続く秘訣(ひけつ)はそのようなところにあるのかもしれません。
昨今では何か問題が発生すると、新しいシステムを導入したり、組織を作ったり、ツールを揃(そろ)えたりすることが提案されます。それも確かに効率的であり、ヒューマンエラーを防ぐためには大事な要素ですが、仕事をする時の心構えや態度、人間性といった根本的なことを見つめ直すことがなければ何も機能しません。
未来に目を向ける一方で、先人たちの言葉に耳を傾けることも大切です。今、あらためて正直・堅実・真面目で感謝の気持ちを持つなど、人としての基本的な考え方を見つめ直していきたいものです。

月桂冠株式会社
京都市伏見区南浜町247/Tel.075-623-2001
http://www.gekkeikan.co.jp/

後世に襷を繋ぎ 残していきたいもの

木下宗昭
佐川印刷株式会社 代表取締役会長
木下宗昭

グーテンベルクが印刷術を発明してから560年余り、「印刷文化」が社会に果たしてきた役割は大変大きなものでした。さまざまな情報を、より多くの人々に伝え、時代を超えて残していく…。例えば、素晴らしい絵画、建物、工芸品など、実に多くの「美しさ」や「感動」を、印刷を通じて私たちは享受してきたのです。
印刷という仕事を長い間させていただいて、私の心の中には「美しさの再現」というテーマが常にありました。そして20年近く前、いろいろな印刷技法の中から、出版グラビア印刷に挑戦したのです。グラビア印刷は、微細な凹凸一点一点を刻み、再現領域の広いインクを立体的に盛って表現します。平版印刷と呼ばれるオフセット印刷に比べ、より美しく再現できるのです。
また私は、壬生寺の前の「京都 清宗根付館(せいしゅうね つけかん)」で館長をさせていただいておりますが、「彫刻によるものづくり」という観点からすれば、根付もグラビア印刷も実に似通っています。根付は、掌(てのひら)に入ってしまう程に小さな工芸品でありながら、味わい深い趣向や、卓越した手技、えもいわれぬ可愛らしさなど、無限の魅力を秘めた日本の伝統工芸です。
良いものを後世に残し、襷(たすき)を繋(つな)いでいく…。印刷も根付も、そんな使命を担っているような気がしてなりません。

佐川印刷株式会社
京都府向日市森本町戌亥5-3/Tel.075-933-8081
http://www.spcom.co.jp/

伝統文化への「誇り」が 共鳴と共感を生む

横山雅一
サッポロビール株式会社 近畿圏本部近畿統括支社 京滋支社長
横山雅一

四季の恵み、豊かな自然、森羅万象すべてのものへの畏敬と感謝の念に培われた「和」を基調とする伝統文化。これこそが世界に類を見ない、素晴らしい日本の文化だと思います。では、日本人は何を忘れたのか? それは、その自らの文化への「誇り」ではないかと思います。
現在、その「誇り」とするものに触れ、習得できる機会が少ないと感じます。人間関係でもビジネス社会でも、自分あるいは自社の「誇り」とするものを認識できてこそ、相手と対等に接することができ、相手の尊重できる部分にも共鳴できます。外国に行き会合などで会話をする機会では、必ずと言っていいほど自国の歴史、文化について尋ねられます。その際、自信を持って「日本」を説明できると、他国の方の歴史や文化にも耳を傾けることができます。そこに自他ともに認め合う共感できる心、素直さ、謙虚さといった生きていくうえで大切なものが潜んでいるのではないでしょうか。
京都には失われつつある日本人の「誇り」がたくさんあります。名所、史跡、伝統文化・産業。そして、それらを維持し育んできた「心」があります。
戦後失われてきた日本人としての「誇り」をもう一度取り戻せる場所、京都。ここには、これから日本国内のみならず世界へ羽ばたこうとされる方々にこそ持ち続けてもらいたい、失ってはいけないものが満ちているのではないでしょうか。

サッポロビール株式会社
近畿圏本部 近畿統括支社 京滋支社=京都市下京区四条通東洞院東入ル/Tel.075-231-7177
http://www.sapporobeer.jp/

足るを知る

湯淺圭一
ジーク株式会社 代表取締役社長
湯淺圭一

日本という国が経済的豊かさを実感したのはいつのことでしょうか。世界に追いつき、追い越せで戦後の高度成長を経験した近年、やっとそれが享受出来たのではないかと思います。
今、各国とも金融緩和政策がさほど効果もなく、景気に与える影響も限定的で、出口をどうするか極めて難しいと言われています。豊かさも、もうこれ以上は求めても得られない状況にあるように思います。
「足るを知る」ことが大事な時に来ていると思います。長い間、われわれの行動を律して来た価値観に思いを巡らす必要があるのではないでしょうか。武士道精神にある「いさぎ良さや人格の高さ」を尊重する考え方や、儒教の教えにある「人と人との関わり合い」を大事にする精神的な豊かさが、今後一層必要な時代になってきたのではないでしょうか。
企業活動においても同様に、日本人の持っていた豊かな感性、価値観、美意識を見つめ直し、文化芸術活動などを通じて社会貢献できればと、今年も願っています。

ジーク株式会社
京都市南区吉祥院新田弐ノ段町33/Tel.075-681-0511(代)
http://www.zycc.co.jp/

交流文化の 発信拠点・京都

杉本健次
株式会社JTB西日本京都支店 執行役員京都支店長
杉本健次

2013年は、伊勢神宮の式年遷宮、 出雲大社の平成の大遷宮、富士山のユネスコ世界文化遺産登録、「和食;日本人の伝統的な食文化」の無形文化遺産登録、訪日外国人観光客の大幅増加など、ツーリズム産業が活気づく一年でした。
さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定は、京都への訪日外国人観光客の増加や、スポーツ振興につながる期待度の高いトピックスとなりました。
2014年は、消費税増税を控え、マーケット動向は不透明と言えます。ツーリズム産業では、2月に「冬季ソチオリンピック」、6月にサッカーの「ワールドカップブラジル大会」など、スポーツ分野を中心に活気あるイベントが予定されています。この流れは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年まで続くことが想定されます。
また、京都においても、京都縦貫自動車道の全線開通や外国人観光客の増加、2015年春には、パラソフィア京都国際現代芸術祭が開催され、文化芸術面においても、地元の活性化につながるイベントが予定され、大いに期待するところです。
京都市の門川市長は、「東京でスポーツを、京都で文化芸術・観光を」と提唱されています。JTB西日本も、さまざまな分野において京都での交流人口を拡大させ、地域活性化を促す役割を担ってまいります。

株式会社 JTB西日本
京都支店=京都市下京区河原町通松原上ル2丁目富永町338
京都四条河原町ビル7階/Tel.075-365-7721
http://www.jtb.co.jp/

激変する社会 青不動のご利益を

東伏見慈晃
青蓮院門跡門主
東伏見慈晃

青蓮院では、今秋、国宝青不動明王を祀(まつ)る大護摩堂を「青龍殿」と名付け東山山頂の将軍塚の境内地に建立します。現代日本の抱えるさまざまな困難な問題に対して、仏教の立場から拠(よ)りどころとなる方向、道筋をつくる活動の拠点となることを目指しています。
京都府所有の、明治から大正にかけての木造文化財「平安道場」(旧大日本武徳殿)は、京都府民の貴重な浄財によって建立され、現代では求めることの出来ない最高級の檜材(ひのきざい)を用い、その時代の木造建築の技術が頂点に達した優れた木造文化財です。
数億もの財をかけて移築再建いたしますことは、後世に伝えるべき使命と考えます。
桓武天皇が都を定められた際、都の安泰を祈って将軍の像を埋めたといわれる将軍塚がある青龍殿は、京都市内および比叡山から大阪までを一望出来る景勝の地であり、境内3千坪の庭園は、桜と紅葉に抱かれています。
この約1000人ほどを収容できる青龍殿を広く宗教活動にご利用いただければと考えております。
今秋10月8日からは国宝青不動の御開帳も予定しており、激変する経済社会の世に青不動明王の御利益が広く行き渡りますことを念願しております。

青蓮院門跡
京都市東山区粟田口三条坊町69-1/Tel.075-561-2345
http://www.shorenin.com/