日本人の忘れもの 知恵会議  ~未来を拓く京都の集い~

コンパスを使って未来をデッサンする

土手素子
長楽館 館主
土手素子

長楽館は1909(明治42)年、実業家村井吉兵衛の別邸として、内外の賓客をもてなすために建てられました。村井の妻宇野子夫人は、親しい知人に「斯(か)かる別邸も自分等の栄耀(えいよう)のためには作る筈(はず)もなければ(中略)御用に立つ折もあらば御報恩の一端ともなりぬべしとの存念にて」と語っています。長楽館は建築当初から、一個人の私物ではなく、国家・国民のための公器としての使命と気概を、建物(かたち)だけでなく、おもてなし(こころ)とともに持っていたといえます。例えば、京都で執り行われた大正天皇の即位式に際して、政府の要請により、外国からの特派大使一行の宿舎として長楽館を提供し、夫妻自らは近くの知人宅に借宿しています。
今を基点として100年の昔を顧みる。時は明治の末ごろ。村井は、100年後の今をどのように描いたのでしょう。村井の目に今日の長楽館はどのように映るのでしょう。村井が夢見た、おもてなしの館となっているかどうか。コンパスの先を100年前からぐるっと100年先に回してみる。100年の来し方を振り返り、今を受け止め、そして100年の彼方(かなた)を見る。あるべき「かたち」、「こころ」が見えてきます。
コンパスの角度を30年にして、30年前を振り返り、30年先を想像してみる。10年前を顧みて、10年先を考える。そして、5年を…。
未来をデッサンしてみる。楽しい時間です。

長楽館
京都市東山区八坂鳥居前東入円山町604/Tel.075-561-0001
http://www.chourakukan.co.jp

人を思う

小林達生
東京海上日動火災保険株式会社 京都支店長
小林達生

世界各地で自然災害が増加しており、京都でも2012年の府南部豪雨災害、2013年の台風18号豪雨、昨年の8月豪雨で甚大な被害を受けました。
当社は「将来にわたって、人々が安心・安全に暮らしていく社会にしたい」という思いを原点に、自動車保険や火災保険、地震保険などの普及とともに、万一事故や災害に遭われたお客さまのお役に立つべく、迅速な保険金のお支払いや早期復旧の支援に努めてまいりました。また、京都大学などとの産学連携により、気候変動・自然災害リスクを研究し、得られた知見をわが国の「災害に強い社会づくり」に役立てていきたいと考えております。
わが国では、その昔から防災・減災を考える上で、「自助・共助・公助」という考えがあります。「自助」とは自ら(家族)の命は自らが備え、守ること。「共助」とは近隣が助け合って災害に備え、守ること。「公助」とは国・行政・市民が連携して、災害発生時に迅速に応急・復旧対策活動を行うこと。阪神・淡路大震災や東日本大震災で再認識され、国民全体で理解を深めていくことが求められる先人たちの教えです。
当社では、小学生向け防災啓発プログラム「ぼうさい授業」を行うなど、震災の経験を風化させないことを念頭に、地域社会への貢献活動を継続して「自助・共助・公助」の考えや精神を伝えてまいりたいと考えております。

東京海上日動火災保険株式会社
京都支店=京都市下京区四条通麩屋町西入立売東町22/Tel.075-241-1152
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/

スーパーより老舗のグローバル化

村田晃嗣
成基コミュニティグループ 代表兼CEO
村田晃嗣

急速な少子化とグローバル化が日本の社会と大学に迫っています。この二つのトレンドの故に、皮肉にも、その土地固有のもの(ローカリティ)や伝統が一層重要になってきているように思います。外では得がたいもの、量産しにくいものに付加価値が高まるのです。京都の町と文化は、その典型ではないでしょうか。
教育、とりわけ高等教育にとっても、一人一人の個性の尊重や多様性の重視、そして、数値では測れない質的な側面が、ますます大切になってきています。掛け値なしに、同志社は京都の地で139年の歴史を重ねてきました。スーパーではなく老舗のグローバル化―それが、この地にあって同志社大学の目指す教育の目標です。
また、グローバル化には外国語の運用能力だけではなく、宗教への理解や感性が不可欠です。個々人が信仰深いかどうかは別にして、宗教的な人々や社会に多様に対応し、交流していかなければなりません。寺社仏閣の町の中心に位置し、キリスト教を徳育の基本とする本学は、この宗教の視点をさらに大切に育んでいきたいと考えています。

同志社大学
京都市上京区今出川通烏丸東入/Tel.075-251-3120
http://www.doshisha.ac.jp/

京都人の度量

齋藤 茂
株式会社トーセ 代表取締役社長
齋藤 茂

今から10年ほど前のことですが、次女がロンドン郊外に留学をしていたころ、ルームメイトから、体調不良のときや何かで困っているときは「言ってくれないと助けてあげられない」と言われたそうです。日本人にとっては、自分自身が何か困っていると、周りの人がそれを察して助けてくれることが当たり前ですが、海外ではそういう訳にはいかないようです。
ところが現在の日本においては、ライフスタイルの変化によって、他人を気遣うどころか、自分のことはほっておいて欲しいと思う人が増加してきたようです。ITの進化により、良くも悪くもプライバシーを守ることが困難になっているからではないでしょうか。
地方から数多くの人が流入する東京では、寂しさを感じている人も多く、適度にプライバシーを守りながらも、少しは人に構ってほしいと思っているのです。一方、京都は、適度に都会で望むものは何でもありますが、同時に田舎の要素もあり、京都独自の人との関わり合いのある特別な風土を持ち合わせています。今は京都市内のマンションを多くの東京の方が購入されており、観光客も急増しているので、今後京都に来られる人は増加の一途をたどり、京都も少し変化すると思います。このようなときこそ、京都人の度量の広さを持って、京都の都市格を高めると同時に、日本の文化、伝統、心の中心としての役割を果たすべきだと思っています。

株式会社 トーセ
京都市下京区東洞院通四条下ル/Tel.075-342-2525
http://www.tose.co.jp

「コトづくり」による「創造業」を目指して

武田一平
ニチコン株式会社 代表取締役会長
武田一平

不変と革新が絶妙のバランスで調和する京都で当社は今年、創立65周年を迎えます。1200年の歴史が育んだ伝統工芸と高い技術、一方で、12万人の学生を抱える大学の街が斬新なアイデアや新しい技術を生み出す、京都は非常に独創性に富んだ都市です。
「コンデンサ」を主とする電子部品メーカーとして、当社は65年の歴史の中で「電気を蓄え、上手に使う」という、電気を効率的にマネジメントする独自技術を磨いてきました。その技術を生かして、家庭用蓄電システム、電気自動車用急速充電器、電気自動車から家庭へ給電するV2Hシステムや、粒子線治療の医療用加速器電源など、エネルギー・環境・医療関連機器を新たに市場導入しています。
それらの製品開発に当たっては、京都の大学や企業との産学連携や産産連携が、大きな役割を果たしました。当社の独自技術が京都というゆりかごの中で育ち、新たな価値創造となったのではないかと思っています。
私どもはお客さまが喜び、感動してくださるような新しい「コト」(お客さまがこれまで想像もしなかった期待以上の経験価値)を提供できる「創造業」として、不変と革新が調和し独創性豊かな都市、京都から新しい価値を社会に提供していきたいと考えています。

ニチコン株式会社
京都市中京区烏丸通御池上る/Tel.075-231-8461
http://www.nichicon.co.jp/

京都の中心から漢字文化を発信する

髙坂節三
公益財団法人日本漢字能力検定協会 代表理事
髙坂節三

「すべての人の学びを支える」という理念のもと、わが日本漢字能力検定協会は「日本漢字能力検定」(漢検)の実施をはじめ、普及啓発・支援活動、調査・研究活動、日本語能力育成活動を行っていまいりました。
年末の風物詩となった「今年の漢字」は昨年で20周年を迎え、記念事業として「未来の漢字」を全国の小学生を対象に募集しました。これからの時代を担う全国の小学生が思い描く「未来の漢字」は、どれも希望に満ち溢れたものであり、輝かしい未来に思いを馳(は)せる小学生たちの姿に胸を打たれました。また「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」を一昨年より実施し、毎年多くの応募をいただき、物ではなく漢字を贈るからこそ伝わる素直な気持ちに深く感動いたしました。このように、表意文字である漢字をあらためて見つめることで、普段忘れてしまっている日本語の素晴らしさを再認識することができます。
当協会は平成28年、京都市東山区祇園に「漢字博物館・図書館」(仮称)を建設します。まさしく京都の中心から、世界へ向けて漢字文化を発信する拠点として活動してまいります。日本語、漢字を学ぶ楽しさ、面白さを創造し、皆さまの学びを支え、わが国における生涯学習の振興と日本文化の発展に寄与してまいります。

公益財団法人 日本漢字能力検定協会
京都市下京区烏丸通松原下る五条烏丸町398/Tel.075-352-8300
http://www.kanken.or.jp/