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第三景 石山の威容

群を抜く唐破風の迫力
神社仏閣にも引けを取らない容輝湯の立派な唐破風(大津市栄町)
神社仏閣にも引けを取らない容輝湯の立派な唐破風(大津市栄町)

 JR石山駅前から南へ歩いて5分ほど。住宅地の角を曲がると、突然、容輝(ようき)湯の巨大な唐破風が現れる。平屋建ての母屋に対し、あまりにも唐破風が大きいため、その姿に驚かされる。

 現在、県内の銭湯で唐破風が残っているのは、「第二景」で紹介した小町湯と、この容輝湯の2軒のみ。京都市内には、簡易なものを含めると、まだ7軒ほど残っているが、容輝湯の唐破風は、インパクトで群を抜いている。華やかだった銭湯文化を、今に伝える貴重な文化財と言っても過言ではない。

保津峡を描いたタイル絵がある浴室
保津峡を描いたタイル絵がある浴室

 体調の優れないご主人の宮前昭さん(76)を支えながら、銭湯を切り盛りする志ず子さん(72)によれば、「昭和7年に建てられたと聞いてます」とのこと。家族によって記憶している年が違うとも付け加えられたが、京都でも唐破風付きの銭湯が多く建てられたのは昭和初期のこと。容輝湯も同時期の建築と考えてよいだろう。昭和30年代までは、現在のような銅板ぶきではなく、茅(かや)でふかれていたそうだ。

 容輝湯は、先代が前経営者から引き継いだため、「容輝」という屋号の由来や意味については不明である。しかし、唐破風の軒下に右から「容輝温泉」と書かれた立派な看板が掛かっているので、なにか手掛かりにならないかと、崩し字で書かれた看板の解読を会員制交流サイト(SNS)で問い掛けてみた。

右から「容輝温泉」と書かれた看板。15年ほど前に修復されたそう
右から「容輝温泉」と書かれた看板。15年ほど前に修復されたそう

 揮毫(きごう)した人名の解読には至らなかったものの、屋号の「容輝」については、中国南北朝時代に編さんされた古詩十九首に「獨宿累長夜 夢想見容輝」という一節があると教えてくださった方がいた。

 離れて暮らす夫を思う妻の気持ちを詠んだ詩で、「(屋号には)愛しい人の顔を夢に見るような心地よい温泉、という意味が込められているのでは」とも書き添えられていた。

 本当の屋号の由来は命名者に聞かないと分からないが、想像は自由である。容輝湯の湯船が、夢見心地の気持ちよさであることは、私が保証しておく。

容輝湯

大津市栄町17の10
077(537)1198
午後3時30分~9時営業
水曜定休
駐車場4台

林宏樹(はやし・ひろき)

林宏樹さん

 フリーライター、銭湯コラムニスト。1969年京都市生まれ。東京で見かけた富士山のペンキ絵が地元にはないのかという疑問から、京都府、滋賀県の現存する銭湯すべてに入浴。著書に「京都極楽銭湯案内」「京都極楽銭湯読本」(淡交社)など。

【2018年10月15日掲載】