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画家 松平莉奈さん

あふれる物語、1本の線に集約

自己と他者の距離感要素に

「今度、地域の運動会に出ない?」と大家さん夫妻に誘われる松平莉奈。puntoは、出会う人やもの、情報の流れで、今の自分の制作がかたちづくられ特別な場所という=京都市南区
「今度、地域の運動会に出ない?」と大家さん夫妻に誘われる松平莉奈。puntoは、出会う人やもの、情報の流れで、今の自分の制作がかたちづくられ特別な場所という=京都市南区

 松平莉奈の魅力は1本の線。そこから物語はあふれ出す。

 オオカミに育てられたアマラとカマラの伝説、一休禅師に尽くした盲目の森女の逸話。モチーフとなる古典や説話が松平を通して出てくると、イメージは増幅し、飛躍し、うそやまことをはらみながら、少しズレ、膨らみ、物語が豊かに揺らぐ。人物は現代性やユーモア、親密さを帯び、不思議な生彩をたたえ始める。人間の中に潜む無数の物語を導きだし、生き生きと潤色していく。

 なぜ、逸話や物語なのか。「脚色されていたり、報告した人の虚偽が入っていたり、事実ではない。真実がなくても、伝えてきた人の何かに共感するからこそ残ってきた。それ自体に価値がある」。絵も同じ。捨象し、抽出して描く。「主観やエゴが入る。そこが物語とリンクする。心が動く瞬間、接点を大事にしたい」

 原点は幼いころ。自分の中でとめどなく物語がわき上がった。それをずっと弟に語り聞かせ、猛烈な勢いで次から次へと画用紙に線を引いた。想像したことを何かに表さずにいられなかった。

(左から)「日本霊異記より 兎の縁」「日本霊異記より 卵の縁」「日本霊異記より 猪の縁」 2018年
(左から)「日本霊異記より 兎の縁」「日本霊異記より 卵の縁」「日本霊異記より 猪の縁」 2018年

 大学で日本画を選んだ。ゼロから作りだすより、あるものを学んで観察して解釈して作る方が向いていたからだ。授業の課題で半年間、地面を描いた。草や石は描かない。ひたすら地面だけ。「平らで、中が詰まっていて、その上に立てるかどうか。ないものを表現するのは難しい。哲学的で修行みたいだった」

 人物を描き始め、背景にその人を暗示するものを配した。スカスカでない、中身の詰まった空間。最初はひもで埋めた。きっかけは、おじいさんが着ていた亡妻の手編みセーターだった。「網目を一個一個描いてたら、おじいさんだけでなく、今はいない奥さんも同時に描いてる実感がわいた。ひもって人間だけが結んだり、ほどいたり、意味を作ったり、呪ったりできる」。日本画の形式や制約も性格に合っているという。「情報を咀嚼(そしゃく)してまとめていく作業が心地よい。たくさんデッサンしたものが最終的に1本の線に集約される。表面に残るのは少しだけど、その過程がしっくりくるんです」

松平莉奈「少女像(菊池契月へのオマージュ)」 2018年 個人蔵
松平莉奈「少女像(菊池契月へのオマージュ)」 2018年 個人蔵

 油彩や木工、漆芸、現代美術、同世代の作家と共同アトリエ「punto(プント)」で制作する。ラテン語で点の意味。拠点が点から線へ、線から面へ広がる願いが込められる。アトリエは刺激を受ける仲間、親切な大家さん、いろんな人、もの、情報が行き交う。自己と他者との距離感、関係性は大事な要素だ。「自分がどんな立ち位置にいるか、常に意識しています」

 11月に開く個展は「日本霊異記」を絵画化する。説話なのに怪談のようで、不条理でシュールな古典。国際日本文化研究センターの共同研究に参加し、研究者にも話を聞く。動物をいじめたり、食べたりする話が多い。「現代に置き換えたら人と人の関係だな、と。不条理さ、やりきれなさを整理して独自に解釈しています」

 最近はアジアに目を向ける。「日本画も、もとは中国から。東洋画は東アジアの中で緩く共有されている。ほかのアジアではどう受容され、若い人はそれをどう捉えているか、知りたいんです」。日本画という物語さえ、軽やかに読み替えていく。

まつだいら・りな

 1989年、兵庫県生まれ。京都市立芸術大大学院美術研究科絵画専攻日本画修了。VOCA展2015佳作賞。続「京都 日本画新展」優秀賞。16年、エピックレコードジャパンとエージェント契約。有名ミュージシャンのアルバムジャケットなどを手掛ける。17年、京都市芸術新人賞。10月2~7日、KUNST ARZT(東山区)でpuntoの木工作家山西杏奈と2人展。11月1~11日、カホ・ギャラリー(同)で個展を開く。

【2018年09月22日掲載】