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美術作家 藤永覚耶さん

表面から裏面へ、その「間」を考える

外と内の結びつきに興味

アトリエから琵琶湖畔はほど近い。試行錯誤が続くシラカバを手に「木に翻弄されています」と語る藤永覚耶(大津市)
アトリエから琵琶湖畔はほど近い。試行錯誤が続くシラカバを手に「木に翻弄されています」と語る藤永覚耶(大津市)

 いびつな円の内側にいくつも小さな色点が現れ、少しずつにじんでいく。粗かった点は隣の点と混ざり合いながら複雑な色面になっていく。

 この映像は、シラカバの丸太の断面だ。3、4センチほどの厚さに輪切りした木の表面にシルクスクリーンで図像を何度も刷り、エタノールを染みこませてインクを裏面までゆっくり到達させる。浸透圧と毛細管現象によって、年輪の中を図像が通り抜ける。といっても、図像はぼやけたり、点の集まりになっていたり。具象と抽象のはざまを揺らぐ。

「Transit」シリーズ新作 2018年
「Transit」シリーズ新作 2018年

 藤永覚耶が注目するのは、表面から裏面へ染みだす数センチの間のできごとだ。イメージを版に置き換える際、3色の網点に分解し、木の表面に染みこませる。それが裏面ににじんで出る時には、さまざまな色味になっている。「中で混じっているのか。僕らが見ることができない内部で何が起こっているか分からない。だから、その『間』を考える。そこに思いを巡らせてほしい」。木が成長した時間や風土、植物の構造、インクの粒子の大小、偶然性もあるかもしれない。「結果しか見ることができないのが魅力的。人間は、この木のように世界の表面しか見えていない」

 この「Transit」シリーズは昨年から取り組む。あまりに像が出過ぎても、色がきれいでも面白くない。「その間のバランスを探す」という。インクの濃度や刷り方を変えてみる。インクを乗せすぎると、管が詰まるようだ。「作品になる可能性は20%ぐらい。自分の力ではコントロールできない。陶芸みたいですね」と笑う。「色が出てくる途中は自分の内側と向き合う。なんだろうと考える過程も含めて作品です」

インスタレーションビュー 2018年(masayoshisuzukigallery)
インスタレーションビュー 2018年(masayoshisuzukigallery)

 ◇

 大学で版画を学んだ後、大学院で油画を専攻。イメージを綿布にアルコール染料で点描し、溶剤でにじませた作品を手掛けた。「描くより、溶け広がる方がしっくりきた。点を溶かして初めて像っぽくなる」。平面的に広がる像を、奧へと浸透させられないかと考えたのが、Transitシリーズだ。

 曖昧な像を、見る人は記憶や認識、心理など内面の情報、反応を手がかりに何かを見ようとするだろう。「自分の意識の内側を探りながら見る感覚。外と内の世界がつながっていく感じに興味がある」。自分が認識できない外側の領域がある一方、自らの内側にも意識がどこから来るのか分かっていない、未知の空洞がある、という。「この二つに何か結びつきがあるのでは」と考えている。

 自然科学、シルクスクリーン、映像、イメージと光の関係性、内面の意識の問題。点のようにばらばらだった関心や技法が一つに結びつこうとしている。「人生で今、一番面白い時期だなと思っています」と語る。

ふじなが・かくや

 1983年滋賀県生まれ。京都嵯峨芸術大卒、愛知県立芸術大大学院修了。BIWAKOビエンナーレ2014、滋賀県次世代文化賞受賞者展などに参加。13年、愛知県美術館で個展「空即是色」。大津市在住。30日からPARC(京都市中京区室町通六角上ル)の個展「Transit」で新作を発表する。12月16日まで。月休。無料。

【2018年11月24日掲載】