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陶芸家 黒川徹さん

美しい形とは、数学理論で探る

自然の法則 ひもから作る世界

工房にある自作の窯に立つ黒川徹。レンガを買い足して大きくしていった。「形はかっこ悪いけど、メンテナンスはしやすい」
工房にある自作の窯に立つ黒川徹。レンガを買い足して大きくしていった。「形はかっこ悪いけど、メンテナンスはしやすい」

 2次元の目で見れば、S字のカーブの先がくるりと急旋回して直線になり、中央の円を貫いている。ちょうど8の字、音符のような形だ。3次元では、S字の陶板の端が円筒になって陶板に空いた穴を突き抜ける。人間の耳の中にありそうな器官でもあり、植物のように有機的な形態でもある。

 黒川徹の作品「蛇」は内と外が反転、表と裏が交錯し、次元を自由に行き交う。黒陶より高温で焼く「銀黒陶」の肌は光を帯びやすく、黒から白へ白から黒へと移ろう。一つの形が別の形を吸い込んで周囲の空間を巻き込みながら巡る。自らの尾を飲み込み円環になる「ウロボロスの蛇」。それが象徴する無限のように。

「蛇[snake]」 2018年
「蛇[snake]」 2018年

 黒川作品の根底を流れるのは、メビウスの帯(輪)やクラインの壺(つぼ)、ポアンカレ予想といった位相幾何学。空間や次元、位置の概念を追究する数学理論を独自に解釈している。「例えば、一つの輪をひねると二つの輪になります。二つの輪を連結すると、無限ループのような形になる。三つの輪っか、二つの輪が重なるとまた別の形になっていく」。一見複雑な形でも、シンプルな物理法則に従って構成されている。

 「こんな風に作りたいんです」。黒川が持ってきたのは土の塊。規則的に穴が並んでいる。土蜂だろうか、虫の巣だ。「虫は本能的に幾何学的な美しい巣を作る。人間は作りたい形を作ろうとすると、想像を超える美しい形はできない。物理的に美しい形とは何か、それが最近のテーマです」

金工に挑戦した「オクシモロンⅠ」(右)と「オクシモロンⅡ」
金工に挑戦した「オクシモロンⅠ」(右)と「オクシモロンⅡ」

 大学で彫刻を専攻し、大学院で陶芸を学んだ。自分が何に引かれて美しく感じるのか。「数学」を意識して作りやすくなったという。理論や法則をもとに実験を繰り返し、多くのマケット(ひな型)を作る中から新たな形を導きだす。「うれしいのは法則を発見したとき。それに出合いたくて制作しています」

 昨年、京都市とパリの交流事業でパリの金工作家に学び、鉄の造形にも挑んだ。「鉄には鎖や手錠など土にない形もある。絡まった二つの輪という考えは鉄から生まれた。土にはその柔らかさ、親しさを残したい」。土から鉄へ、また金属から得たアイデアを陶芸へ相乗的に生かした作品を「現代美術 艸居(そうきょ)」(東山区・中京区 2月2~27日 無料)で発表する。万物の根源・素粒子が点でなく極小のひもであるとする弦(ひも)理論がテーマ。「宇宙がどういう仕組みか、どういう形なのか。到底分かり得ないけど、ちょっとでも分かれば、自分もその一部なんだと実感できるかもしれない」

 黒川も、ひもから世界を作りだす。ひも状の土を積層して成形するひも作りだ。ひもから面へ、面と面とのせめぎ合いへ。自然の法則と響き合う美しい抽象の形を探る。

くろかわ・とおる

 1984年京都府生まれ。筑波大卒、京都市立芸術大大学院修了。信楽をはじめ、台湾、エジプト、ロシア、中国など各地で滞在制作、ワークショップを行う。07年神戸ビエンナーレ準大賞、長三賞現代陶芸ビエンナーレ長三大賞。国際陶磁器フェスティバル美濃’17審査員特別賞。亀岡市在住。

【2019年01月26日掲載】