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日銀の「異次元」金融緩和 景気後退に備え収拾を

報道部 柿木拓洋
2%の物価安定目標に向けて金融緩和を粘り強く続けると強調する日銀の黒田総裁(大阪市北区)
2%の物価安定目標に向けて金融緩和を粘り強く続けると強調する日銀の黒田総裁(大阪市北区)

 景気拡大が戦後最長に迫ってきた。平成初めから長く低迷した日経平均株価は、今年10月初旬、バブル崩壊後の最高値を27年ぶりに更新した。だが、それも束(つか)の間。11日には米国発の急激な株安が世界の市場に連鎖した。緩やかな景気回復の下、大規模な金融緩和を長期間続ける日銀にとって、景気が後退した場合に打つ手は少ない。「異次元緩和」の手じまいと、その出口戦略を真剣に考える時がきている。

 「2%の物価安定目標を早期に実現できるよう、金融緩和を粘り強く続けていく。その点に全く変わりはない」。日銀の黒田東彦総裁は9月下旬、大阪に出張した際の記者会見で、2%の目標は「道半ば」として、緩和政策を継続する方針を重ねて強調した。

 黒田総裁が自ら「異次元」と呼んだ大規模緩和は、就任直後の2013年4月から始まった。12年末に発足した第2次安倍政権の「アベノミクス」に呼応し、当初は国債を年80兆円ものペースで購入。長期金利は低下し、金融機関は企業や個人に貸し出す金利を引き下げた。株式や上場投資信託(ETF)も大量に買い入れ、円安・株高の状況をつくり出した。

 マネーの大量供給で人々のインフレ期待は高まり、いずれ物価は上昇する―。こんな日銀の思惑をよそに、消費者の根強い節約志向や石油価格の下落で物価は思うように上がらなかった。2%の目標達成時期は6回にわたり先送りされ、今春にはついに目標時期を示すことを取りやめた。

 「このまま緩和が続くと、資産価格の膨張に歯止めが掛からなくなる。でも、これまで日銀はとにかくインフレ目標一本槍(やり)。中央銀行が物価を安定させようとするのは当然だが、物価だけにこだわるのは危険だ」。日銀出身で金融政策に詳しい翁邦雄・法政大客員教授はこう指摘する。

 9月に連載した「バブルはめぐる」の取材でも、長引く金融緩和によるカネ余りの影響が感じられた。京都市では増加するインバウンド(訪日観光客)の実需も加わり、宿泊施設の開発が過熱。関連の不動産融資も活発化し、市中心部の地価は高騰している。投資ファンドも花盛りだ。人工知能(AI)やバイオ系などのベンチャー企業には巨額の資金が集まっている。

 問題は、好調な米国経済と安定した円相場の下、拡大する日本の景気が逆回転を始めた時だ。日銀の歴史的な超低金利政策によって貸し出しや国債運用などの「本業」で稼げなくなっている金融機関の収益がさらに悪化し、深刻な金融危機につながる可能性もある。

 「19年秋の消費増税と20年の東京五輪後を考えると、不安しかない」。関西のある地方銀行幹部は漏らす。現在、銀行などの経営が極度に悪化していないのは、企業倒産が低調だからだ。不況で倒産が増え、不良債権や貸し倒れに備えて用意する引当金が膨らむと、低金利の中で確保した利益が消し飛び、多くの銀行が窮地に立たされる。

 だが、国債を大量に買い、長期金利の上昇を抑えてきた日銀に、金利を下げる余地はほとんどない。米中貿易戦争で世界経済に暗雲が漂う中、緩和縮小に向かうのか。市場や金融関係者は、日銀の金融政策を厳しく見つめている。

[京都新聞 2018年10月17日掲載]

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